結婚したくないはずの俺様社長に、成婚を強行されました

「あら、透子。まだ残っていたのね。どうかした?」

 タブレッド端末に視線を落としていた母は、透子に気づくと眼鏡を外してデスクの上に置いた。

「所長、今お話しいいですか」

 透子の声色が硬いのに気づいたのか、母はこちらを見て小さく微笑む。

「もしかして、婚約者のふりするの、疲れちゃったのかしら?」

「……やっぱりバレてましたか」

 透子は大きくため息をついた。

「最初から、真壁様に一芝居打たれたって気づいていたわよ。どうせ、縁談除けにあなたと婚活しているふりをするつもりだろうって」

 さすが婚活界の魔女だ。すべてお見通しだったらしい。

「もう……知ってて、放っておくなんて人が悪いですね」

 つい恨み言が口をつく。

「真壁様が知人を紹介してくださるって話も魅力的だったし、透子にとってもいい経験になるから様子を見ていたの。まさか、一緒に住むとは思わなかったけどね」

 悪びれる様子はなかったものの、透子の表情を見た母は、困ったように微笑んだ。

「でも、辛くなっちゃったのね?」

 優しく声を掛けられた瞬間、透子の中でピンと張っていた糸が切れた。

「……お母さん。私、迅さんを好きになっちゃった」