結婚したくないはずの俺様社長に、成婚を強行されました

「ん……」

 最初、何が起きたのかわからなかった。

 けれどすぐに、自分が迅にキスされているのだと理解する。触れ合った唇の熱がじわりと全身へ広がっていく。痺れるような感覚に、彼の胸に添えた指先が小さく震えた。

 一度触れ合っただけでは飽き足らないかのように、角度を変えて掬うように重ねられる。強引に奪うようなキスなのに、不思議と優しくて甘い。

「透子……」

 唇がわずかに離れた隙間から、迅の低く掠れた声が漏れる。

(だめ……こんなの、勘違いしてしまう)

 彼に心から求められているような錯覚に陥った透子は、息が苦しくなるほど唇を重ねられても、抵抗する気にはなれなかった。
「は……」
 やがて迅がゆっくりと唇を離していき、お互いの熱を帯びた吐息がかすかに触れ合う。

 その途端、透子の瞳からぽろりと涙が零れ落ちた。

「あ……」

 自分では泣いているつもりなどなかったのに、いつの間にか感情が溢れていた。

「――すまない」

 我に返ったように、迅はすっと体を離す。そして苦しげに眉を寄せたまま、透子の頬へ指を滑らせた。

 涙を拭うその手つきは、壊れ物に触れるかのように優しい。