結婚したくないはずの俺様社長に、成婚を強行されました

 優しくされたら、好きだと伝えたくなってしまう。離れたくないと、縋りついてしまいそうになる。

 そんな感情を隠しながら、彼とこの家で暮らし続けるなんて、到底できそうになかった。透子はぎゅっと指先を握り締める。
「迅さん。私、なるべく早く自宅に戻ろうと思います」

「自宅? 君の家はここだろう」

 即座に返された言葉に、胸が痛む。

「私のマンションです。お母様や周りの方にも、婚約者の存在は十分認識してもらえたと思いますし……しばらくは縁談も来ないはずですよね」

 透子は視線を逸らして続ける。

「だから、もう無理に一緒に暮らす必要はないのかなって」

「急にどうした。パーティで何かあったのか」

 迅の声音が明らかに低くなる。

「……たしかに、思いました。私にはふさわしくない世界なんだなって」

 絞り出すように零した言葉が、自分自身の胸を深く刺した。けれど、それが現実だ。

「そもそも、あんなに迅さんを心配してくださってるお母様に、嘘をついてよかったんでしょうか」

「それは……」

 珍しく言葉を詰まらせた迅から目を逸らし、透子は左手へ視線を落とした。