結婚したくないはずの俺様社長に、成婚を強行されました

「でも当時の私は、結婚なんて考えられなかった。モデルとしてやっていきたかったから」

 そこで言葉を切り、亜里沙は意味ありげに微笑む。

「でも、迅は私を待ってるって言ってくれたの。その証拠に、迅はそのあと一切縁談を受けなかったし、結婚もしなかった」

 その瞬間、周囲のざわめきが遠のいた気がした。

(迅さんは……亜里沙さんのことが好きだったの?)

 ――俺は結婚自体するつもりはない。

 いつか、迅はそう言っていた。

 あれは、結婚そのものを望んでいないという意味ではなく、亜里沙以外と結婚したくない、という意味だったのだろうか。ふたりの気安い雰囲気が脳裏に浮かび、胸が締め付けられたように苦しくなる。

「最近になって、私も考えが変わったの。今なら迅と結婚してもいいって、本気で思ってる」

 亜里沙は鋭い眼差しで透子を見つめる。

 透子は左手の指輪を無意識に庇うように握り締め、必死に自分が迅の隣にいていい理由を探す。けれど、どれだけ考えても何も思い浮かばない。

「……でも、私たちはもう、婚約しています」

 かろうじて口にできたのは、形だけの婚約関係に縋る言葉だった。