結婚したくないはずの俺様社長に、成婚を強行されました

 けれど、その瞳はまったく笑っていなかった。

「初めまして、真壁恭弥です。お会いできて嬉しいです」

 その後、迅は透子を弟に紹介した。

 面差しは迅によく似ているが、彼のほうが少し柔和で優しげな雰囲気を纏っている。

「持田透子です。よろしくお願いします」

 透子が頭を下げると、恭弥は人懐っこく笑った。

「兄から透子さんの噂はいろいろ聞いてますよ」

「恭弥、余計なことを言うなよ」

 すかさず釘を刺す迅に、恭弥はわざとらしく肩を竦めた。

 迅によると、二人三脚で会社を経営している恭弥は右腕とも言える存在らしい。

「兄さんが結婚したら、これからは俺に縁談が集中するのかなぁ」

 冗談めかしてため息をつく恭弥に、迅はあっさりと言い返した。

「お前も、早くいい女性を見つければいいだけだ」

「まったく、相手がいる男の余裕が恨めしいよ。でも、兄さんが家庭を持ってくれたら俺も安心だ」

 軽口を叩き合う兄弟のやり取りは気安く、どこか微笑ましかった。

 そのとき、会場の奥の方から「おーい、迅、恭弥!」と上機嫌な声を上げている人物がいた。五十代くらいの恰幅のいい男性だが、酔っているようで、顔は真っ赤だ。