結婚したくないはずの俺様社長に、成婚を強行されました

 寂しげな詩乃を前に迅は驚いたように目を見開き、そして静かに言った。

「……俺は、まだ若いです。心配はいりません」

「でも、あなた、社長になってから働きづめでしょう。なにかあってからじゃ遅いのよ」

 まったく引く気配のない詩乃に、さすがの迅も困ったように眉を寄せた。

 そのとき、明るい声が近づいてくる。

「おばさま!」

「まあ、亜里沙ちゃん」

 笑顔になった詩乃に親しげに抱きついて「お誕生日おめでとう」と微笑む女性。その顔を見て、透子は思わず息を呑んだ。

(え、モデルの亜里沙?)

 抜群のプロポーションに、人形のように整った顔立ち。艶のある長い髪に、隙なく洗練されたドレス姿。

 十代の頃から雑誌や広告で活躍してきた人気モデルの彼女は、最近も〝三十二歳の誕生日を迎えたとは思えない若さと美しさ〟でSNSで話題になっていたばかりだ。MSBの化粧品のCMにも長く出演している。

 実物は画面越しよりさらに華やかで、ただ立っているだけなのに視線を引き寄せられる。

「仕事が押して、駆けつけるのが遅くなってしまったの。ごめんなさい」

 亜里沙が申し訳なさそうな声を出すと、詩乃は首を横に振る。