結婚したくないはずの俺様社長に、成婚を強行されました

「ご、ご立派なお屋敷なんですね」

 まさに〝屋敷〟という言葉が、似合ってしまう邸宅を前に思わず声が上ずる。

「そんなに緊張しなくてもいい」

 腕にかけた透子の指先に力が入りすぎていることに気づいたのだろう。迅は苦笑しながらこちらを見た。

「ただの俺の実家だ。今日は少し賑やかだが、普段は静かだ」

 あなたの実家だからこそ緊張しているんです――とは言わずに透子は曖昧に笑う。

 今日の迅はフォーマル仕様の濃紺のスーツに身を包んでいる。

 もちろん仕立てのいいオーダー品で、長身の体格に合わせて計算されたように美しいラインを描いている。

 肩幅の広さや引き締まった腰回りが際立ち、圧倒的な存在感があった。

 これから透子は、この人の母親の誕生パーティに出席し、婚約者を演じるのだ。頭の中では何度も想定し、言葉遣いや立ち居振る舞いまで対策を立ててきたはずなのに、足がすくみそうになる。

(本当に本当に今さらだけど、私、断ればよかったのでは……)

 迅の母が透子に会いたいと望んだとはいえ、頭のいい迅なら、うまく理由をつけてやんわり断ることもできたのではないか。