結婚したくないはずの俺様社長に、成婚を強行されました

 透子が抗議するように言うと、迅は小さく肩を揺らした。どうやら彼は、透子が恥ずかしがったり、慌てたりするのが好きらしい。

「どうだろうな」

 意味深にそう返したあと、迅はようやく透子を腕の中から解放する。

 ほっと息をついた、その瞬間――頬に柔らかな感触が触れた。

「えっ……」

 反射的に固まる透子を見て、迅はさらに楽しそうに目を細める。

「頬にキスくらい、いいだろう……着替えてくる」

 さらりと言い残し、迅はそのまま寝室へ向かっていった。

 広い背中が扉の向こうへ消えるのを見送ってから、透子は熱を持った頬を両手で押さえる。

 頬へのキスは、自分のマンションの前でされたあの日以来だった。

(もう……絶対わざとだ)

 からかわれていると分かっているのに、そのたび簡単に動揺してしまうのが悔しい。けれど同時に、そんなやり取りをどこか楽しんでいる自分がいることにも、透子は気づいていた。


 迅は夕食を綺麗に平らげ、最後にはお代わりまでしてくれた。その食べっぷりが嬉しくて、思わず透子の箸も進んだ。