結婚したくないはずの俺様社長に、成婚を強行されました

 帰宅すれば抱きしめられ、隣に座れば髪を撫でられ、気づけば肩や腰に自然と手が回っている。

 これをふたりきりの家の中で当たり前のようにされると、透子ばかりが落ち着かなくなってしまう。

 迅に言わせると、婚約者らしく見せるためには、これくらいの触れ合いに慣れておく必要があるらしい。

(それにしたって、ここまでしなくてもいいような……でも、変に拒絶するのも違う気がするし)

 葛藤する透子を腕の中に閉じ込めたあと、迅はようやく少しだけ体を離した。それでも片腕は腰に回ったままだった。

「夕食、作ってくれたんだな」

 キッチンから漂う香りに気づいたのだろう。迅はどこか嬉しそうにコンロの方へ視線を向けた。

「はい。今日は早めに準備できたので」

 胸の鼓動を意識しないようにしながらそう答えると、迅はふっと目元を緩める。

「なんだか、こうしていると婚約者じゃなくて新婚みたいだな」

「し……」

 驚いてまじまじと顔を見ると、迅の口の端がわずかに上がっていた。

 いつもの余裕のある表情だが、どこか楽しそうだ。

「もしかして、わざとそういうこと言ってます?」