結婚したくないはずの俺様社長に、成婚を強行されました

 互いに別々のことをして静かに過ごす時間もあれば、他愛のない話で盛り上がることもある。

 結婚相談所のカウンセラーという職業柄、透子は普段から常に相手の顔色や空気を読んでしまう癖がある。でも、迅といる時間は、ただ自然体でいられた。

(ひとり暮らしが長かったから、誰かと暮らすなんて大丈夫かなって不安だったけど、むしろ安心感があるのよね)

 とても順調な同居生活の滑り出しと言えよう――ある一点を除いて。

 透子がコンロの火を止めていると、玄関の方でドアが開く音がした。続いて聞こえる足音に、透子は顔を上げた。


「お帰りなさい」
 キッチンから声を掛けると、スーツ姿の迅がふっと表情を緩めた。まるで、心から安堵したような顔に、透子の胸は小さく跳ねる。
 迅はそのまま迷いなくこちらへ歩み寄ってくると、長い腕で透子を引き寄せた。

「ただいま、透子」

 真正面から抱きしめられ、どくりと鼓動が跳ねる。

 広い腕に包まれる感覚にも、耳元に落ちる低い声にも、未だに慣れない。

 透子がここに越してきて戸惑っているのは、迅の距離の近さだった。