結婚したくないはずの俺様社長に、成婚を強行されました

(まあ、もちろん、私たちは同棲しているように見せているだけの、同居人なんだけど)

 そんなことを考えながら、透子はキッチンに立っていた。

 パントリー付きの広く明るいキッチンは驚くほど使い勝手がよく、動線も整っていて料理がしやすい。

 今日は水曜で透子の仕事は休みだったため、昼のうちに近くのスーパーへ買い出しに行き、夕食の準備をしていた。

 メニューは、鶏肉と野菜のトマト煮込みに、きのこのマリネ、シンプルなグリーンサラダ。コンソメスープ。

 特別凝った料理ではないが、仕事で帰りが遅くなる迅でも重たくなりすぎず、ちゃんと温かいものを食べられるように考えた献立だった。

 煮込み鍋から立ちのぼる湯気を見つめながら、透子は無意識に時計へ視線を向ける。

(迅さん、そろそろ帰ってくるかな)

 彼の帰りをごく自然に待っている自分がなんだか不思議だ。

 透子が迅の住む恵比寿の高級低層レジデンスへ引っ越したのは、一週間ほど前のことだった。

 婚約者のふりを依頼されてから、わずか五日後である。