結婚したくないはずの俺様社長に、成婚を強行されました

 想像しかけて、透子は耐えきれず玄関のドアに額を押しつけた。

「迅さんは、ちょっと揶揄うつもりだったんだよね……」

 消え入りそうな声が静かな部屋に落ちる。触れられた頬の熱は、なかなかひいてはくれなかった。


 結婚相談所には、〝成婚退会までお泊まり禁止〟という鉄の掟がある。

 キスやハグなら問題ないが、成婚退会するまでは肉体関係を持ってはいけないという決まり故に設けられているルールだ。だから〝同棲〟イコール〝成婚〟とみなされる。

 それを知っていたのか、迅は透子をマンションに迎え入れるにあたり、律儀に成婚退会の形をとった。母によると、迅は正式には会員ではないのに謝礼という形でしっかり成婚料を払ったそうだ。

 母は『さすが真壁様ね』と手放しで喜んでいた。

 もちろん、この先、約束通り迅から彼から富裕層の独身者を紹介してもらえることにも期待しているのだろう。もう少しくらい、娘の結婚そのものに対する感慨があってもいいのに。

 迅の母に透子との交際を漏らしたのを指摘しても『そうだったかしらね』とうそぶくだけだった。