結婚したくないはずの俺様社長に、成婚を強行されました

 部屋の前に着くと、名残惜しそうに手を離しながら迅が声を零す。

「君と一緒に暮らすのか。どんな生活になるのか、楽しみだな」

(生活……そっか、私、迅さんの家で一緒に暮らすんだ)

 改めてその事実を認識して胸がどくりと鳴った。

 もちろん、ただの同居人だ。意識するほうがおかしい。そう自分に言い聞かせ、なんとか平静を装おうとするのに、頬は熱くなるばかりだ。

「あの、よろしく……お願いします」

 黙っているわけにもいかず、遠慮がちに彼を見上げる。すると、迅は軽く目を見開き、困ったように息をついた。

「……まったく、君は無防備だな。そんなかわいい顔を見せられたら――我慢できなくなる」

 低く掠れた声に、透子の肩がびくりと揺れる。

「迅さん……?」

 迅はいつもの余裕を崩したような表情でこちらを見下ろしていた。熱を孕んだ視線が絡みつくようで、透子の鼓動はさらに速くなる。
 彼はすっと上半身を屈めると、透子の両肩にそっと手を置き、そのまま顔を近づけてきた。

 至近距離に影が落ちる。ふわりと彼の纏う香りが鼻先を掠め、心臓が大きく跳ねた。