結婚したくないはずの俺様社長に、成婚を強行されました

「ちょ、ちょっと待ってください。婚約指輪って、どういう意味ですか……!?」

 声を潜めたつもりなのに、最後は半ば裏返ってしまう。

 一方の迅は、そんな透子の反応を面白がるように口の端を上げた。

「かわいいな。君のびっくりした顔」

「酷いです……」

 恨めしく睨んでも、迅はどこ吹く風だ。むしろ機嫌がよさそうにすら見える。

 さらに笑みを深めると、迅はコーヒーカップを持ち上げ、ゆっくり口を開いた。

「透子、俺のマンションで一緒に暮らさないか?」

 衝撃の発言にもはや声も出ず、透子はただ目を瞬かせた。

「少し、戦略を変えようと思ったんだ。実際、婚約したふりをしてしばらく時間を稼ごうと。その方が、成婚退会で終わらせるよりメリットが多い」

「……い、いくらなんでもそれは難しくないですか」

 突拍子もない話を始める迅に混乱しつつ、透子はなんとか声を押し出す。

「まあ、そう思うにはきっかけがあったんだが」

「きっかけ、ですか」

「君のお母さんが、俺の母に、俺が交際しているのが自分の娘だと口を滑らせてしまったらしい。それで、事情を母に問い詰められね」

(お母さん……!)