結婚したくないはずの俺様社長に、成婚を強行されました

 ばたん、とドアが閉められ、続いて運転席のドアが開いた。

 迅は無言のまま乗り込み、ドアを閉める。だがエンジンをかけるでもなく、ハンドルに手を置いたまま動かない。

 車内に、重たい沈黙が落ちた。その空気に耐えきれず、透子はおそるおそる口を開く。

「……遅くなるんじゃなかったでしたっけ」

「予定がなくなったから、すぐに家を出てきた」

 淡々とした口調だが、どこか棘がある。

「だったら、そう連絡してくれたらよかったのに」

 思わず不満を漏らすと、迅の視線がこちらへ向いた。

「着いてから連絡した方が確実だし、寒い中君を外で待たせずに済むと思った。姿が見えたから車を置いて戻ったら、なぜか男と顔を寄せ合っていたけどな」

 どうやら迅はカフェでの様子を外から見ていたようだ。低い声からは苛立ちがありありと伝わってくる。

「顔を寄せ合ってって、鈴谷さんは同僚ですし、仕事の話をしていただけです」

「同僚? ああ、チョコマフィンの男か」

「チョコ……?」

「以前、君が言っていただろう」

(そんな話、したっけ)