結婚したくないはずの俺様社長に、成婚を強行されました

 その感謝の気持ちは、身体を包む温もりに対してだけではなかった。

「私、最近、仕事で少しだけ悩んでいたんですが、がんばれそうです。それに、恋愛音痴の私が、形だけでも男性との交際を体験できているのは、迅さんのおかげです。成婚退会までしっかり協力しますね」

「形だけ……か」

 やけに低い迅の声が、風に紛れて消えていく。しかし次の瞬間には、何事もなかったかのようにいつもの調子に戻っていた。

「ああ、頼んだ。そうだ。海が好きなら、今度うちの船に乗せてやる。元は父の船だが、今は弟の所有になっているから、いつでも使えるぞ」

「えぇ、船まで持ってるんですか?」

 思わず目を丸くしたが、透子は真壁家ならあり得ると納得して、苦笑した。

 夜の海は変わらず静かに広がり、きらめく光がゆるやかに揺れている。ふたりは寄り添いながら、しばらくその景色を見つめた。