キミが家族になった、その日から。

同居生活が始まってから、早くも一週間が過ぎた。


家では“おはよう”と“おやすみ”を交わすようになったけれど、それ以上の会話はほとんどない。


──学校では、約束通り他人。

教室で目が合っても、涼は何事もなかったように視線を逸らす。それも、最初は寂しかった。


でも、それが涼なりの優しさなんだと、少しずつ分かるようになってきた。


──そんなある日の放課後。


「ねぇ、夏音。今日カラオケ行かない?」


親友の美優が声をかけてきた。


「ごめん。今日は買い物頼まれてて……」


「また?」


「うん…」


母から届いたメッセージには、『牛乳と卵お願いね』と書かれていた。


最近は、家族四人分の買い物を頼まれることも増えた。


「じゃあ今度ね!」


「うん!」



手を振って別れると、夏音は商店街へ向かった。


スーパーで買い物を済ませ、両手いっぱいの袋を抱える。


「重っ…いくらなんでも頼みすぎでしょ…」


文句をブツブツいいながら、思った以上に荷物が多くなった袋を両手で、持ち替えようとした瞬間、袋が傾いた。


「あっ……!」


 卵のパックが落ちそうになる。


──そのときだった。


「危ね…」


───後ろから伸びた手が袋を支えた。


聞き慣れたぶっきらぼうで低い声。


「……涼?」


「何やってんの?」

「なに、っておつかい頼まれたから…」


 制服姿の涼が、呆れたようにため息をつく。

「涼こそ、何してるの?ここで」


「…別に」

「ふーん」

「……荷物、貸して」


「え、いやいいよ! 自分で持てるし。」

「持ててない」

「……」

一言で言い返される。


「でも……」


「卵割れたら、母さん困るだろ。」


そう言うと、涼は夏音の返事も待たずに買い物袋をひょいと持ち上げた。

「え、ちょっと!」

「帰るぞ」

そして、ふたり肩を並べて、そのまま歩き出す。


夏音は慌てて後を追いかけた。


「ありがとう」

「別に」


───いつもの素っ気ない返事。

だけど、歩幅だけは夏音に合わせて少しゆっくりだった。


涼って、優しいな。ふっと頭に思ったけど、そんなことを思った自分に、慌てて首を振る。


「ちが…家族だから優しく……」


そう言い聞かせても、胸の奥がほんの少しだけ温かくなっていた。

 
家まであと少しというところで、突然、空が暗くなる。


「雨……?」

 ───ぽつり、ぽつり。


次の瞬間、バケツをひっくり返したような夕立が降り出した。

「うわっ!」


 夏音が慌てると、涼は近くのバス停の屋根へ駆け込む。


「はやくしろ」


 二人は肩を並べて雨宿りをすることになった。


 夕立は勢いを増すばかり。


 帰れそうにないほど酷い夕立が2人の顔を曇らせる。

──沈黙が流れる。

 
気まずい。

でも、不思議と嫌じゃなかった。

「……涼ってさ、」

──夏音は小さく口を開く。