キミが家族になった、その日から。



──セミが、ミーンミーンと鳴くうるさい夏、うだるような、首に髪がくっ付く暑い夏、そんな夏休みの前日。



“橘高等学校”の終業式が終わり、2-A組の教室は帰省や旅行の話で賑わっていた。

今日は終業式の一限だけで終わりだし、もう帰ろうとウサギのマスコットが付いたスクールバッグを手に取り教室のドアを開ける。


桜の木が生えてる並木道を通ると両耳からセミの鳴き声を貫く。そして歩いてから15分ほどで家に着く。


「ただいまー」

「夏音、おかえり。」

──リビングに入ると、母が待っていた。

「夏音、ちょっといい?」

「どうしたの、お母さん」


少し照れくさそうに笑いながら言う。


「実はね、お母さん再婚することになったの。」


突然すぎる報告に、私は言葉を失う。


「……」


「…相手の人には、高校2年生の息子さんがいるの。今日から一緒に暮らすことになるわ。」


お父さんを事故で失い、そこから二人三脚で2人で今まで頑張ってきた。自分の幸せよりも私の幸せって感じで頑張っていたお母さんがやっと…自分の幸せを見つけてくれた。


「良かった、幸せになるんだね。」


「うん、そうよ…。あ、家引っ越すけどここから近いから」


そして、その日の夕方。新しい家の玄関を開ける。


「ふふ、ただいま」 とお母さん。


「お邪魔します……。」

この言葉であっているのか分からないけど、とりあえずここが今日から私の家…



お母さんと一緒にリビングに入ると、一人の男子がソファで本を読んでいた。すると、


──見覚えのある横顔。

夏音は息をのむ。

「……え?」


本を読んでいた男子も顔を上げる。


「……柴崎?」

同じクラスで、女子から絶大な人気を集めるクールな男子――柴崎涼だった。


母たちは笑いながら言う。


「偶然だけど、二人とも柴崎なのよね。」


──気まずい沈黙が流れる。


涼は本を閉じると、夏音の前まで歩いてくる。


「…よろしく」

──その声は教室で聞くより少しだけ柔らかかった。


しかし、次の瞬間、夏音の耳元で、小さく囁く。


「一つだけ約束。」

「……え?」


「俺のこと、絶対好きになるな。」

「……は?」

「面倒だから」

そう言い残し、自分の部屋へ向かう涼、残された夏音は呆然と立ち尽くす。

「なに、その言い方…! 誰があんたみたいな人を好きになるのよ……」


その日、夏音はまだ知らなかった。

この言葉が、何度も胸を締めつけることになることを。

そして──


“好きになるな”と言った本人が、誰よりも先に夏音を好きになってしまうことを。