初夏のまぶしい日差しを遮るように、青葉の大きな影が落ちる広い公園のベンチ。
糸と凛は、そこに並んで腰掛けていた。
「部活の遠出の合宿がね、たまたま京都だったの。もしかしたらどこかで会えるかもって、ずっと街中をキョロキョロ探してたんだけど……本当に会えちゃうなんてね」
凛はそう言って、少し肌の焼けた顔で嬉しそうに笑った。その変わらないお姉さんみたいな親友の笑顔を前に、糸は私服の胸元をぎゅっと押さえ、激しいザワめきを必死に抑え込む。
「凛……本当にびっくりしたよ。私も、また会えて嬉しい。……でも、京都に来るなら連絡してくれたらよかったのに」
「ううん。直接会って、ちゃんと顔を見て話したいことが、たくさんあったから」
凛の言葉からスッと温度が消え、悲しそうに、どこか寂しげに微笑んだ。そのただならぬ雰囲気に、糸の背筋に冷たい緊張が走る。
「凛、あのね……っ」
何かを言いかけようと言葉を詰まらせた糸を遮るように、凛は正面を向いたまま、静かに爆弾を落とした。
「恭弥とは、別れたの」
「――……え」
予想もしていなかった言葉に、糸は大きく目を見開いた。
頭の中が真っ白になり、心臓がバクバクと嫌な音を立てて跳ね上がる。
二人の幸せを願って、自分がどれだけの嘘を吐いて、どれほどの涙を流して東京を去ったと思っているのだろう。あのホームでの別れは、一体何だったのか。
「ふふ、なんでそんなに驚くの? 恭弥から聞いてない? 糸が京都に行ってからも、恭弥はちょくちょく糸に連絡してたんでしょ?」
凛の口から出た言葉に、糸は信じられないような目で親友を見つめた。
「聞いてないよ、そんなの……っ! どうして? どうして別れちゃったの? 凛、あんなに恭弥のこと……大好きだったじゃない……っ!」
信じたくなくて、声を荒らげて問い詰める糸。
しかし、凛はそれ以上の弁明を許さない冷徹な声で、糸の言葉を鋭く遮った。
「糸。私にずっと、隠し事してたでしょ?」
「え……? どういうこと……っ」
心臓が冷たい手で掴まれたように凍りつく。
「糸だって、恭弥のこと……ずっと男の子として好きだったクセに。……今でもそうでしょ?」
凛はゆっくりとベンチから立ち上がり、座ったままの糸を見下ろした。
生い茂る木々の影が頭上からすっぽりと覆い被さり、逆光になって凛が今どんな表情をしているのか、糸の位置からはまったく読み取ることができない。
「っ――」
完璧に暴かれた、過去の優しい嘘。
あの更衣室で一人で泣いた夜も、道場の裏で「三人の幼馴染としてずっと一緒にいたい」と笑って吐いた偽りの祝福も、すべては凛に届いていたのだ。
京都の地で、彼に出会い、ようやく前を向きかけていた糸。なのに、
その足元を再び泥泥とした東京の過去が強く引きずり戻そうとする。
静まり返った公園の木陰で、二人の少女の間に、息の詰まるようなきしんだ沈黙が重く張り詰めようとしていた。



