体育祭はいよいよ、最高潮の盛り上がりを見せるフィナーレに差し掛かっていた。
運動場の周りは、割れんばかりの歓声と女子生徒たちの黄色い悲鳴のような声が複雑に混ざり合い、独特の熱気が渦巻いている。
誰もがグラウンドの中央で行われている応援団の演舞に、息を呑んで目を奪われていた。
糸は人混みの隙間から、白組の応援団の陣営へとふと目を向けた。
そこには、初夏の力強い日の光を一身に浴びて、真剣な眼差しで応援団長を務める響矢の姿があった。黒い学ランをきりりと着こなし、大声を張り上げて団員たちを鼓舞する姿は、まばゆいほどに輝いている。
糸はその圧倒的なオーラから、どうしても目を逸らすことができず、ただじっと見入ってしまっていた。
(響矢くん…カッコいいな…)
幼馴染の恭弥とは違う、響矢ただ一人だけの、まっすぐで強烈なまぶしさ。
その時、激しく腕を振っていた響矢の視線が、ふわりと糸のいる方向へと向いた。
無数の生徒が囲むなかで、二人の視線が、奇跡のようにはっきりと絡み合う。
響矢は糸の熱い視線に気が付いた。
張り詰めていた彼の口元が、嬉しそうに、ほんの少しだけ緩む。
そして演舞の激しい動きの合間を縫うようにして、糸だけに向けて、あのきらきらとした、お日様の笑顔を向けてみせた。
「っ……!」
ブレザーを脱いだ体操服の胸の奥で、心臓が爆発しそうなほどドクンと激しく跳ね上がる。
驚きと恥ずかしさで熱が顔へと一気に集まっていくのに、糸はどうしても視線を逸らすことが出来なかった。
そんな糸の動揺を見透かすように、響矢はさらに視線を強く絡ませたまま、演舞の型をピシッと決めた。
そして、周囲の誰にも気づかれないほどのわずかなリップシンクで、そっと唇を動かした。
――“俺を、見て”
声は聞こえなかった。けれど、その真っ直ぐな視線と唇の動きで、糸にははっきりと分かった。
それは、大歓声に包まれた広いグラウンドの中で、糸と響矢の二人だけにしか分からない、あまりにも甘くて独占的な秘密の会話。
(もう……本当に、バカみたい……っ)
今、目の前で自分の心を強引に、だけど誰よりも優しく揺さぶってくる響矢の存在に、糸の心は完全に支配される。
ドキドキさせられっぱなしの糸は、耳の裏まで真っ赤に染まっていく顔を結月や周りの生徒に隠すようにして、たまらずパッと視線を下へとそらした。
高鳴り続ける胸元を片手でぎゅっと押さえながら、糸は恋心の余韻に、ただひたすら引っ張られそうになっていた。



