家に帰った糸は、制服のままベッドの上へと横になっていた。
部屋の天井をぼんやりと見つめていると、昼休みの渡り廊下で交わした響矢との会話が、どうしても脳裏に蘇ってくる。
"俺は、初めて会ったときから、糸ちゃんのことで頭がいっぱいやねん"
あの真剣な眼差しと、その後に続いたお調子者なセリフ。結局のところ、彼の言葉のどこまでが本気で、どこからがからかいだったのだろう。頭の片隅で、どうしても気になって仕方がなかった。
「いやいや、ダメダメ! なんで思い出すのよ、私……っ!」
糸はバタバタとベッドの上で足を震わせ、自分の両頬を両手で挟み込んだ。
これじゃあまるで、自分が響矢のことを、なんだか異性として意識して気になっているみたいじゃないか。
「ただのからかいに決まってるのにっ……」と口の中で呟くけれど、一度自覚してしまった顔の熱は、いっこうに引いてくれる気配がなかった。
その時だった。
まるで糸の動揺のタイミングを計っていたかのように、手元のスマホがブー、ブーと短く震えた。
「――っ」
跳ね起きるようにスマホの画面を確認すると、そこには、数時間前に胸を裂くような言葉を投げかけてきた『恭弥』の文字があった。
メッセージ通知のポップアップを開く。
そこには、『糸、今日はごめん。また、今度話そう』という、どこか申し訳なさそうな一文だけが残されていた。
液晶の光が、糸の瞳に冷たく反射する。
恭弥の声が聴けて嬉しかったはずの心は、もうどこにもなかった。今の自分には、凛とのすれ違いを打ち明け、自分への執着を覗かせる恭弥の言葉を受け止めるだけの余裕なんて、これっぽっちも残されていない。
「こんなんじゃ……もう、なんて返事していいか分からないよ……」
胸の奥がズキズキと、音を立てて激しく痛み出す。
糸はスマホをベッドへ放り出すと、溢れそうになる複雑な涙を隠すように、ぎゅっと枕に顔を伏せた。
二人の間でもやもやする自分の心に耐えかねて、糸は夕闇が迫る部屋のなかで、ただ小さく身体を丸めることしかできなかった。



