糸はごくりと喉を鳴らした。
響矢の放つひたむきな熱量に圧倒され、どうしてもその視線から目を背けることができなかった。
「俺は、初めて会ったときから、糸ちゃんのことで頭がいっぱいやねん。だから、糸ちゃんが困ってたら助けたいって思うし、守りたいって思う。……まぁなんなら、隙さえあれば? ぎゅうーって抱きつきた――」
「ちょっと! ちょっと待ったぁああ!」
あまりの直球さと、後半に混ざった不穏な不意打ちに、糸は顔を真っ赤にして叫んでいた。響矢のセリフを全力で遮り、その目の前に両手を突き出す。
響矢は驚いたように、言葉を途切れさせてその場に固まった。
「え? 俺、今めちゃくちゃええこと喋ってたはずやねんけど……」
「待って、待って、ストップ!」
糸の頭の中は、一瞬にしてキャパシティを超えていた。
今の言葉の並びはどう考えてもおかしい。つまり、東雲響矢という少年は、かなり遠回しに――いや、ほぼストレートに、自分のことが好きだと言っているのではないだろうか。
(え?!そういうことなのっ……?)
ぐるぐると思考が高速で回転し、行き場をなくした熱が、一気に顔へと集まっていくのが分かった。
「えっと、響矢くん!? ちょっと色々ストレートすぎるというか、私、ちょっと色々混乱するっていうか……! その、勘違いしそうになるっていうか!」
真っ赤になった顔を隠すこともできず、糸は必死に響矢を静止するように言葉を捲し立てた。
すると、そんな糸のテンパり具合を目の当たりにした響矢は、ふっと表情を緩め、楽しそうにクスッと笑った。
「あー、ごめん。俺もなんか、勢い余って止まれへんかったわ。堪忍な」
クスクスと肩を揺らして笑い出す響矢。その飄々としたいつもの調子に戻った姿を見て、糸はハッと眉をひそめた。
「ちょっと! なに……私をからかってるの?」
怒り混じりに尋ねる糸に対し、響矢は少し意地悪な、けれどどこか優しい顔をしてニカッと笑ってみせた。
「あはっ、やっぱ糸ちゃんって可愛ええなぁ! ――せやけど、ほら。さっきまでの暗い顔、どこかへ行ってまうくらい元気出たやろ?」
「――っ」
糸は息を呑んだ。
からかわれたのだと腹を立てようとしたけれど、彼のその一言で、自分が恭弥からの電話で今にも泣きそうになっていたことを思い出す。
響矢は、糸をわざと怒らせて、照れさせて、東京の暗い過去の残像から強引に引っ張り出してくれたのだ。
振り回されているのは自分なのに、その不器用な優しさに気づいてしまい、糸はまた別の理由で顔を赤く染めた。
「な、……やっぱり、からかったんでしょ!?」
「まー、何はともあれ下の名前で呼んでもらえたし、俺としては大収穫やけどな?」
恥ずかしさを隠すようにぷんぷんと怒る糸に向けて、響矢は「結月によろしゅうな、糸ちゃん!」と茶目っ気たっぷりに舌をべっと出してみせた。そして、廊下の向こうから先生が歩いてくる気配を察すると、長い足を弾ませて、あっという間に自分の教室へと去っていってしまった。
嵐のように去っていった、彼の後ろ姿。
「……あ」
糸はそこでようやく、自分が自然と彼のことを『響矢くん』と呼んでいたことに気が付いた。
ずっと避けていた、大好きな人の名前の響き。
けれど、今、胸の奥に残っているのは、恭弥への切ない未練なんかじゃない。
直球で、お調子者で、だけど誰よりも鋭く自分を救ってくれた彼への、甘く激しい鼓動の余韻だけだった。
(待って、…なんで私、こんなにドキドキしてるのっ…?)
響矢の放つひたむきな熱量に圧倒され、どうしてもその視線から目を背けることができなかった。
「俺は、初めて会ったときから、糸ちゃんのことで頭がいっぱいやねん。だから、糸ちゃんが困ってたら助けたいって思うし、守りたいって思う。……まぁなんなら、隙さえあれば? ぎゅうーって抱きつきた――」
「ちょっと! ちょっと待ったぁああ!」
あまりの直球さと、後半に混ざった不穏な不意打ちに、糸は顔を真っ赤にして叫んでいた。響矢のセリフを全力で遮り、その目の前に両手を突き出す。
響矢は驚いたように、言葉を途切れさせてその場に固まった。
「え? 俺、今めちゃくちゃええこと喋ってたはずやねんけど……」
「待って、待って、ストップ!」
糸の頭の中は、一瞬にしてキャパシティを超えていた。
今の言葉の並びはどう考えてもおかしい。つまり、東雲響矢という少年は、かなり遠回しに――いや、ほぼストレートに、自分のことが好きだと言っているのではないだろうか。
(え?!そういうことなのっ……?)
ぐるぐると思考が高速で回転し、行き場をなくした熱が、一気に顔へと集まっていくのが分かった。
「えっと、響矢くん!? ちょっと色々ストレートすぎるというか、私、ちょっと色々混乱するっていうか……! その、勘違いしそうになるっていうか!」
真っ赤になった顔を隠すこともできず、糸は必死に響矢を静止するように言葉を捲し立てた。
すると、そんな糸のテンパり具合を目の当たりにした響矢は、ふっと表情を緩め、楽しそうにクスッと笑った。
「あー、ごめん。俺もなんか、勢い余って止まれへんかったわ。堪忍な」
クスクスと肩を揺らして笑い出す響矢。その飄々としたいつもの調子に戻った姿を見て、糸はハッと眉をひそめた。
「ちょっと! なに……私をからかってるの?」
怒り混じりに尋ねる糸に対し、響矢は少し意地悪な、けれどどこか優しい顔をしてニカッと笑ってみせた。
「あはっ、やっぱ糸ちゃんって可愛ええなぁ! ――せやけど、ほら。さっきまでの暗い顔、どこかへ行ってまうくらい元気出たやろ?」
「――っ」
糸は息を呑んだ。
からかわれたのだと腹を立てようとしたけれど、彼のその一言で、自分が恭弥からの電話で今にも泣きそうになっていたことを思い出す。
響矢は、糸をわざと怒らせて、照れさせて、東京の暗い過去の残像から強引に引っ張り出してくれたのだ。
振り回されているのは自分なのに、その不器用な優しさに気づいてしまい、糸はまた別の理由で顔を赤く染めた。
「な、……やっぱり、からかったんでしょ!?」
「まー、何はともあれ下の名前で呼んでもらえたし、俺としては大収穫やけどな?」
恥ずかしさを隠すようにぷんぷんと怒る糸に向けて、響矢は「結月によろしゅうな、糸ちゃん!」と茶目っ気たっぷりに舌をべっと出してみせた。そして、廊下の向こうから先生が歩いてくる気配を察すると、長い足を弾ませて、あっという間に自分の教室へと去っていってしまった。
嵐のように去っていった、彼の後ろ姿。
「……あ」
糸はそこでようやく、自分が自然と彼のことを『響矢くん』と呼んでいたことに気が付いた。
ずっと避けていた、大好きな人の名前の響き。
けれど、今、胸の奥に残っているのは、恭弥への切ない未練なんかじゃない。
直球で、お調子者で、だけど誰よりも鋭く自分を救ってくれた彼への、甘く激しい鼓動の余韻だけだった。
(待って、…なんで私、こんなにドキドキしてるのっ…?)



