「なーんてな! これ、絶対に響矢には言わんといてや! なんか自分で言っててめっちゃ悔しいわぁ!」
結月はそれまでの真剣な表情を一転させ、いつものようにニカッと悪戯っぽく笑った。
自分で背中を押しておきながら、どこか照れくさそうに「あー、ほんま悔し!」と頭を抱える親友の姿。
糸の胸の奥に、じわりと陽だまりのような温かいぬくもりが広がっていく。
東京で傷つき、殻に閉じこもっていた自分の心を救ってくれたのは、目の前で太陽のように笑う、この真っ直ぐな彼女のおかげだった。
「話してよかった」と、糸は心の底から救われるような気持ちで結月を見つめた。
結月は錆びついた鉄柵から身を乗り出すようにして、遠くの青空と京都の街並みを眺める。
「あーあ、せっかくここで噂したってんのに。くしゃみのひとつでもせーへんかな、あのアホ響矢!」
「ふふ、してるかもね」
「ほんまそれ! 噂をすれば影、や。あ、影ちごて、今はただのアホやな!」
「ふふ、結月ったら酷いー」
結月のカラッとした言葉のチョイスが何だかおかしくて、糸の口から自然と、鈴の音のような明るい笑い声が溢れ出た。
屋上を吹き抜ける風は、まだ少し生温い。
けれど、東京から持ってきたあの重くて苦しい澱は、結月の流してくれた涙と、この賑やかな笑い声のなかに、少しずつ、けれど綺麗に溶けていくような気がした。
二人は授業が始まるチャイムが鳴るまで、青空の下でいつまでも、楽しそうに笑い合っていた。



