屋上には、お弁当を食べ終えて談笑する生徒たちの姿がちらほらとあった。
糸と結月はそこから少し離れた、見晴らしの良い場所まで歩くと、錆びついた鉄柵に手をかけながら静かに話し始めた。
結月は、糸の口から紡がれる言葉を一語一語、何ひとつ取りこぼさないようにじっと耳を傾けた。
保育園の砂場での思い出。
大好きな恭弥をまっすぐに追いかけて手を掴み取った親友の凛。
三人という名の残酷な孤独に耐えかねて、誰にも本音を言えずに東京から逃げてきたこと。
糸がすべてを話し終えるまで、結月は何度も目を見開いたり、唇を噛んで何かを言いかけそうにしたりしていた。けれど、静かになった屋上で糸がふっと息を吐き出したとき、結月の目からは大粒の涙がボロボロと溢れ落ちていた。
「えっ……? 結月、なんで泣いて……っ」
まさか自分以上に親友が泣き出すとは思わず、糸は驚いて大慌てでポケットのハンカチを探す。
結月はぐすっと鼻をすすりながら、涙を制服の袖で乱暴に拭った。
「なんなんそれぇ~! 糸ちゃんが可哀想すぎて、私、ほんまに許せへんわ……! ありえへん! こんなに優しくて可愛い糸ちゃんが、なんでそんなに我慢しなあかんの! その恭弥っていう無自覚なアホ男、今すぐ京都に呼び出して竹刀でボコボコにせな気が済まへんわ私!!」
怒りと悲しみで顔を真っ赤にして泣きじゃくる結月。
恭弥の名前が出た瞬間、糸の胸はまだズキズキと痛んだ。けれど、自分のことのように激しい怒りを感じて、一緒に涙を流してくれる結月の存在が、今の糸にとっては救いそのものだった。
「ありがとう、結月。もう泣かないで? 私、結月に話せて本当によかったって思ってるから。一人で抱えるのはもう限界だったし……聞いてもらえるだけで、本当に嬉しかった」
糸が優しく微笑みかけると、結月は目に涙をいっぱいにためたまま、言葉にならずに糸の身体をぎゅっと強く抱きしめてきた。
東京のホームでの別れとは違う、心からの味方を得たぬくもり。二人は屋上の風に吹かれながら、しばらくの間、静かに抱き合っていた。
少しして、お互いに気持ちが落ち着いた頃。
結月は糸のスマホに表示された、三人で撮った過去の写真の恭弥の顔をじっと見つめた。
「うーわ……っていうか、ほんまに響矢に生き写しやなぁ。中身が全然違うだけに、見ててなんか気色悪いわぁ……」
結月は本気で顔を真っ青にして身震いしてみせる。そのあまりにもストレートな物言いに、糸は堪えきれなくなって、クスッと苦笑いを漏らした。
「ふふ、そうだね。私も最初は、幽霊でも見たんじゃないかって本当に驚いたけどね」
遠くに広がる京都の山々を眺めながら、糸は風に揺れる茶色い髪を指先でそっと耳にかけた。
東京の初恋は、結月の涙のおかげで、少しだけ遠くへ消えていったような気がした。
すると、隣にいた結月が、きゅっと表情を引き締めて糸の目を真っ直ぐに見つめてきた。
「糸ちゃん。あんな……響矢はいつも調子ええし、猪突猛進やし、あんな奴やけど……。でもな、絶対に糸ちゃんを苦しめたり、悲しませたりするようなことはせぇへん男や。それは…、昔から見てきた私が保証する!」
「結月……?」
結月は少し視線を彷徨わせ、どこか照れくさそうに言葉を続けた。
「だから……響矢と仲良うしてってお願いするのは、親友としてちょっと私が言うのは悔しいんやけどな? ……これからは、ちゃんと糸ちゃんの目の前におる響矢を……見たげてくれへんかな?」
「っ……!」
糸は大きく目を見開き、驚きに固まったまま結月の顔を見返した。
親友が自分の過去を理解したうえで、新しい出会いへと繋ごうとしてくれている。
そのあまりにも真っ直ぐで温かい提案に、糸の胸の奥で、カチリと新しい恋の歯車が静かに音を立てて噛み合い始めていた。
糸と結月はそこから少し離れた、見晴らしの良い場所まで歩くと、錆びついた鉄柵に手をかけながら静かに話し始めた。
結月は、糸の口から紡がれる言葉を一語一語、何ひとつ取りこぼさないようにじっと耳を傾けた。
保育園の砂場での思い出。
大好きな恭弥をまっすぐに追いかけて手を掴み取った親友の凛。
三人という名の残酷な孤独に耐えかねて、誰にも本音を言えずに東京から逃げてきたこと。
糸がすべてを話し終えるまで、結月は何度も目を見開いたり、唇を噛んで何かを言いかけそうにしたりしていた。けれど、静かになった屋上で糸がふっと息を吐き出したとき、結月の目からは大粒の涙がボロボロと溢れ落ちていた。
「えっ……? 結月、なんで泣いて……っ」
まさか自分以上に親友が泣き出すとは思わず、糸は驚いて大慌てでポケットのハンカチを探す。
結月はぐすっと鼻をすすりながら、涙を制服の袖で乱暴に拭った。
「なんなんそれぇ~! 糸ちゃんが可哀想すぎて、私、ほんまに許せへんわ……! ありえへん! こんなに優しくて可愛い糸ちゃんが、なんでそんなに我慢しなあかんの! その恭弥っていう無自覚なアホ男、今すぐ京都に呼び出して竹刀でボコボコにせな気が済まへんわ私!!」
怒りと悲しみで顔を真っ赤にして泣きじゃくる結月。
恭弥の名前が出た瞬間、糸の胸はまだズキズキと痛んだ。けれど、自分のことのように激しい怒りを感じて、一緒に涙を流してくれる結月の存在が、今の糸にとっては救いそのものだった。
「ありがとう、結月。もう泣かないで? 私、結月に話せて本当によかったって思ってるから。一人で抱えるのはもう限界だったし……聞いてもらえるだけで、本当に嬉しかった」
糸が優しく微笑みかけると、結月は目に涙をいっぱいにためたまま、言葉にならずに糸の身体をぎゅっと強く抱きしめてきた。
東京のホームでの別れとは違う、心からの味方を得たぬくもり。二人は屋上の風に吹かれながら、しばらくの間、静かに抱き合っていた。
少しして、お互いに気持ちが落ち着いた頃。
結月は糸のスマホに表示された、三人で撮った過去の写真の恭弥の顔をじっと見つめた。
「うーわ……っていうか、ほんまに響矢に生き写しやなぁ。中身が全然違うだけに、見ててなんか気色悪いわぁ……」
結月は本気で顔を真っ青にして身震いしてみせる。そのあまりにもストレートな物言いに、糸は堪えきれなくなって、クスッと苦笑いを漏らした。
「ふふ、そうだね。私も最初は、幽霊でも見たんじゃないかって本当に驚いたけどね」
遠くに広がる京都の山々を眺めながら、糸は風に揺れる茶色い髪を指先でそっと耳にかけた。
東京の初恋は、結月の涙のおかげで、少しだけ遠くへ消えていったような気がした。
すると、隣にいた結月が、きゅっと表情を引き締めて糸の目を真っ直ぐに見つめてきた。
「糸ちゃん。あんな……響矢はいつも調子ええし、猪突猛進やし、あんな奴やけど……。でもな、絶対に糸ちゃんを苦しめたり、悲しませたりするようなことはせぇへん男や。それは…、昔から見てきた私が保証する!」
「結月……?」
結月は少し視線を彷徨わせ、どこか照れくさそうに言葉を続けた。
「だから……響矢と仲良うしてってお願いするのは、親友としてちょっと私が言うのは悔しいんやけどな? ……これからは、ちゃんと糸ちゃんの目の前におる響矢を……見たげてくれへんかな?」
「っ……!」
糸は大きく目を見開き、驚きに固まったまま結月の顔を見返した。
親友が自分の過去を理解したうえで、新しい出会いへと繋ごうとしてくれている。
そのあまりにも真っ直ぐで温かい提案に、糸の胸の奥で、カチリと新しい恋の歯車が静かに音を立てて噛み合い始めていた。



