少し冷たさの残る春風が、白いレースのカーテンをふわりと揺らした。
ひまりは窓辺に立ち、静かに桜を見つめる。
病院の中庭に咲く桜は満開だった。
風に舞う花びらが陽の光を受けて、淡く輝いている。
昨日、病室で起きた出来事を、何度思い返しても答えは見つからなかった。
目を覚ました時、涙を流しながら手を握ってくれた母。
そして、病室へ入ってきた見知らぬ男性。
どうしてあんなに悲しそうな顔をしていたんだろう。
どうしてあの人は、私の名前をあんなにも優しく呼んだんだろう。
考えようとすると、胸の奥がざわつく。
頭の中に白い霧がかかったようで、その先へ進めない。
コンコン。
ノックの音に、ひまりの肩が小さく震えた。
(また、あの人……?)
「失礼します。」
病室のドアが開き、入ってきたのは看護師だった。
「おはようございます。昨夜は眠れましたか?」
「はい……。」
ひまりは小さく頷く。
「藤堂さん、朝食をお持ちしますね。」
その名前に、ひまりは目を瞬かせた。
「……えっと。」
看護師が優しく顔を向ける。
「私、藤堂じゃありません。」
一瞬の沈黙。
看護師は表情を変えることなく、穏やかな声で尋ねた。
「では、お名前を教えていただけますか?」
「冨田ひまりです。」
看護師は小さく頷いた。
「そうなんですね。ありがとうございます。」
一呼吸置き、穏やかな笑みを浮かべる。
「少し離れますが、また伺いますね。」
そう言って静かに病室を出て行った。
ひまりは首を傾げる。
(なんで名前なんて聞いたんだろう……。)
その時だった。
ピロン。
静かな病室に、小さな通知音が響く。
ベッドサイドテーブルの上に置かれたスマートフォン。
画面が光っている。
ひまりはゆっくりと手を伸ばした。
自分のもののはずなのに、どこか知らない誰かの持ち物のように感じる。
画面を開いた瞬間、息が止まった。
純白のウエディングドレス。
幸せそうに笑う自分。
その隣には――昨日、病室で会ったあの男性。
「……誰?」
小さくこぼれた声は、自分でも驚くほど震えていた。
コンコン。
再びノックの音。
ひまりの胸が小さく高鳴る。
「入るよ。」
昨日と同じ声。
ひまりはゆっくりと振り返る。
病室の入り口に立つ男性は、昨日と同じように優しく微笑んでいた。
「おはよう、ひまり。」
その声を聞いても、何も思い出せない。
ひまりはスマートフォンを胸に抱き、小さく頭を下げた。
「……ごめんなさい。」
一呼吸置いて、言葉を続ける。
「あなたは……どちら様ですか。」
ひまりは窓辺に立ち、静かに桜を見つめる。
病院の中庭に咲く桜は満開だった。
風に舞う花びらが陽の光を受けて、淡く輝いている。
昨日、病室で起きた出来事を、何度思い返しても答えは見つからなかった。
目を覚ました時、涙を流しながら手を握ってくれた母。
そして、病室へ入ってきた見知らぬ男性。
どうしてあんなに悲しそうな顔をしていたんだろう。
どうしてあの人は、私の名前をあんなにも優しく呼んだんだろう。
考えようとすると、胸の奥がざわつく。
頭の中に白い霧がかかったようで、その先へ進めない。
コンコン。
ノックの音に、ひまりの肩が小さく震えた。
(また、あの人……?)
「失礼します。」
病室のドアが開き、入ってきたのは看護師だった。
「おはようございます。昨夜は眠れましたか?」
「はい……。」
ひまりは小さく頷く。
「藤堂さん、朝食をお持ちしますね。」
その名前に、ひまりは目を瞬かせた。
「……えっと。」
看護師が優しく顔を向ける。
「私、藤堂じゃありません。」
一瞬の沈黙。
看護師は表情を変えることなく、穏やかな声で尋ねた。
「では、お名前を教えていただけますか?」
「冨田ひまりです。」
看護師は小さく頷いた。
「そうなんですね。ありがとうございます。」
一呼吸置き、穏やかな笑みを浮かべる。
「少し離れますが、また伺いますね。」
そう言って静かに病室を出て行った。
ひまりは首を傾げる。
(なんで名前なんて聞いたんだろう……。)
その時だった。
ピロン。
静かな病室に、小さな通知音が響く。
ベッドサイドテーブルの上に置かれたスマートフォン。
画面が光っている。
ひまりはゆっくりと手を伸ばした。
自分のもののはずなのに、どこか知らない誰かの持ち物のように感じる。
画面を開いた瞬間、息が止まった。
純白のウエディングドレス。
幸せそうに笑う自分。
その隣には――昨日、病室で会ったあの男性。
「……誰?」
小さくこぼれた声は、自分でも驚くほど震えていた。
コンコン。
再びノックの音。
ひまりの胸が小さく高鳴る。
「入るよ。」
昨日と同じ声。
ひまりはゆっくりと振り返る。
病室の入り口に立つ男性は、昨日と同じように優しく微笑んでいた。
「おはよう、ひまり。」
その声を聞いても、何も思い出せない。
ひまりはスマートフォンを胸に抱き、小さく頭を下げた。
「……ごめんなさい。」
一呼吸置いて、言葉を続ける。
「あなたは……どちら様ですか。」


