テレビのニュースで梅雨明け宣言が発表された翌日、関東は午後から滝のような豪雨に見舞われた。
戸室坂まひるは図書室のカウンターで暇そうに窓の外の大雨を眺めていた。 まひるの相方である麻痺棚俊は不在だった。
今朝、まひるは俊から図書委員の当番を休ませて欲しいと頼まれた。 新しく付き合う事になった彼女の誕生日らしく、彼女が俊にお祝いを強要したらしい。
最近は図書室の利用者も少なく、まひるは俊の頼みを「貸し1つね」と言って快諾した。 まひるは俊との会話を思い出し、内心でほくそ笑んでいた。
凡百の男子では無く、学年1位のイケメンである俊が自分の話に食い入るように関心を持った。その事実は、まひるの自尊心を十分過ぎるほど満足させていた。
爽快な気分とは裏腹に、まひるは無意識に顎に爪を立て掻いていた。
「戸室坂。この本頼むよ」
カウンターの机の上に本を置いたのは、まひるのクラスメイトの東魁優仁だった。
「あれ? 図書室に来るなんて珍しいね東魁君。部活は?」
野球部だと一目瞭然の坊主頭。目や鼻、口など各所のパーツが顔の中心にやや寄っている優仁は、無言で窓に向かって指を指した。
「ああ。突然の豪雨で部活は中止ね」
納得したまひるは、手際よく貸し出し作業を終える。優仁か借りた1冊の本は、今女子に話題の人気小説だった。
「意外だね。東魁君。こんな小説読むんだ?」
「妹に頼まれてさ。学校の図書室にあったら借りてくれって」
まひるから本を受け取りながら、優仁はまひるの顎に視線を集中させていた。
「······戸室坂。もしかして、その顎、化粧かぶれじゃないか? 赤く腫れてるぞ?」
大雑把でデリカシーの無い典型的な体育会系男子。東魁優仁の事をそう評していたまひるは、思いも寄らない指摘に一瞬動揺した。
「べ、別に大丈夫だよ? ちょっと痒いだけだから」
「うちの妹も似たような症状があってさ。肌に合わないならあんまり化粧は控えたほうがいいぜ?」
優仁はそう言い残して図書室を出ていった。まひるは顎を掻きながら、表現し難いモヤモヤが胸の中に残っていた。
翌日、朝のホームルームが始まる前に、優仁がまひるの机の前にやってきた。そして、まひるに1冊の本を差し出す。
「この本さ。妹が症状ある時に読んでたやつなんだ 。貸すから読めよ」
優仁はいつもの口調。いつもの大雑把な態度でまひるに「あきらめないで。アトピー」という題名の本を勧めて来た。
まひるは冷静に優仁の意図を分析する。優仁とはこれまで授業で組むグループで2度同席した事があった。 会話する時もせいぜい2往復程度であり、まひるから見た優仁は明らかに2軍男子であり、優仁に対して愛想や期待をさせるような態度は微塵も見せなかった。
その優仁がまひるを心配してその対処法の本を貸すと言ってきた。これは純粋な親切心か。それとも下心があっての点数稼ぎか。
まひるは前者と判断したが、優仁に借りを作るような気がしたのでやんわりと本を借りる事を断った。 優仁との交流はそこで終わる筈だった。
だが、優仁の行動力はまひるの想像を超えていた。放課後、部活に行く前に優仁はまひるに声をかけてきた。
「······え? 東魁君、今なんて言ったの?」
「だからさ。今度の土曜日。俺に付き合ってくんない?」
まひるの胸中には、図書室で感じたモヤモヤが色濃く甦っていた。
戸室坂まひるは図書室のカウンターで暇そうに窓の外の大雨を眺めていた。 まひるの相方である麻痺棚俊は不在だった。
今朝、まひるは俊から図書委員の当番を休ませて欲しいと頼まれた。 新しく付き合う事になった彼女の誕生日らしく、彼女が俊にお祝いを強要したらしい。
最近は図書室の利用者も少なく、まひるは俊の頼みを「貸し1つね」と言って快諾した。 まひるは俊との会話を思い出し、内心でほくそ笑んでいた。
凡百の男子では無く、学年1位のイケメンである俊が自分の話に食い入るように関心を持った。その事実は、まひるの自尊心を十分過ぎるほど満足させていた。
爽快な気分とは裏腹に、まひるは無意識に顎に爪を立て掻いていた。
「戸室坂。この本頼むよ」
カウンターの机の上に本を置いたのは、まひるのクラスメイトの東魁優仁だった。
「あれ? 図書室に来るなんて珍しいね東魁君。部活は?」
野球部だと一目瞭然の坊主頭。目や鼻、口など各所のパーツが顔の中心にやや寄っている優仁は、無言で窓に向かって指を指した。
「ああ。突然の豪雨で部活は中止ね」
納得したまひるは、手際よく貸し出し作業を終える。優仁か借りた1冊の本は、今女子に話題の人気小説だった。
「意外だね。東魁君。こんな小説読むんだ?」
「妹に頼まれてさ。学校の図書室にあったら借りてくれって」
まひるから本を受け取りながら、優仁はまひるの顎に視線を集中させていた。
「······戸室坂。もしかして、その顎、化粧かぶれじゃないか? 赤く腫れてるぞ?」
大雑把でデリカシーの無い典型的な体育会系男子。東魁優仁の事をそう評していたまひるは、思いも寄らない指摘に一瞬動揺した。
「べ、別に大丈夫だよ? ちょっと痒いだけだから」
「うちの妹も似たような症状があってさ。肌に合わないならあんまり化粧は控えたほうがいいぜ?」
優仁はそう言い残して図書室を出ていった。まひるは顎を掻きながら、表現し難いモヤモヤが胸の中に残っていた。
翌日、朝のホームルームが始まる前に、優仁がまひるの机の前にやってきた。そして、まひるに1冊の本を差し出す。
「この本さ。妹が症状ある時に読んでたやつなんだ 。貸すから読めよ」
優仁はいつもの口調。いつもの大雑把な態度でまひるに「あきらめないで。アトピー」という題名の本を勧めて来た。
まひるは冷静に優仁の意図を分析する。優仁とはこれまで授業で組むグループで2度同席した事があった。 会話する時もせいぜい2往復程度であり、まひるから見た優仁は明らかに2軍男子であり、優仁に対して愛想や期待をさせるような態度は微塵も見せなかった。
その優仁がまひるを心配してその対処法の本を貸すと言ってきた。これは純粋な親切心か。それとも下心があっての点数稼ぎか。
まひるは前者と判断したが、優仁に借りを作るような気がしたのでやんわりと本を借りる事を断った。 優仁との交流はそこで終わる筈だった。
だが、優仁の行動力はまひるの想像を超えていた。放課後、部活に行く前に優仁はまひるに声をかけてきた。
「······え? 東魁君、今なんて言ったの?」
「だからさ。今度の土曜日。俺に付き合ってくんない?」
まひるの胸中には、図書室で感じたモヤモヤが色濃く甦っていた。

