幸せな朝の光に包まれたリビングで、私の左手薬指に並んだダイヤモンドを眺めていると、ふと、あの夜明けのオフィスのことを思い出す。
全ての誤解が解けて、慧さんに一生の寵愛を誓われた、あの奇跡のような朝。
───実はあの時、慧さんが私を後ろから抱きしめる直前のこと。
激しく動揺してまくしたてる私の背後で、慧さんの視線は、デスクの上にポツンと置かれていた”ある紙”に注がれていたらしい。
それは、私が絶望の中で、彼に迷惑をかけずに消えようと涙を堪えながら記入した───『離婚届』だった。
『……雛乃。お前、これを置いて、俺の前から消えるつもりだったのか』
振り返った慧さんの瞳が、初めて会ったときの冷徹な”エリート冴島社長”に戻る。
慧さんは私の目の前で、デスクの上の離婚届を迷いなく掴み取ると───。
ビリビリ、と容赦ない音を立てて、それを跡形もなく引き裂いた。
『ひ、慧さん……っ』
『こんなクソみたいな紙、二度と書くな』
破り捨てた紙クズを躊躇いなくゴミ箱へ投げ捨てると、慧さんは驚いて固まる私をソファへと押し倒し、上から完全に組み伏せる。
逃げられないように両手首を大きな手で床にとめられて、至近距離で見下ろされた。
『お前が俺から逃げる方法なんて、死ぬまで用意してやらない。お前も、俺の子供も、全部俺のものだ。……分かったな?』
普段の彼からは想像もつかない、独占欲が剥き出しになった低い声。
『……っ、はい……』
降ってきた熱いキスに溺れながら、私は確信する。
───この人は本当に、私を一生離してくれない。
そのあまりにも強引で深い寵愛が、今は愛おしくて、たまらなく幸せだった───……。



