夏と冬が重なれば。番外編



「っやっぱり無理無理無理無理無理無理ぃ!!!」

限界を迎えた咲夏は叫ぶようにそう言うと、弾かれたように冬弥の身体から飛び退き、両手で自分の顔をすっぽりと覆い隠した。
それを見た冬弥は、再び堪えきれずに吹き出した。

「あははははっ!!」

縛られた両手をソファに投げ出したまま、冬弥の爆笑は一向に止まる気配がない。
完全に恥ずかしさのキャパシティを超えてしまった咲夏は、しばらくの間フイッとそっぽを向き、ソファのいちばん端っこへと移動して膝を抱えるように三角座りをした。

「もー……。いい加減、機嫌直してよ、咲夏〜」

ようやく笑い声を収めた冬弥が、スカーフで縛られた手を器用に動かして咲夏の元へと近づき、ツンツンとその柔らかいほっぺたをつつく。
だが、咲夏は頑なに顔を背けたままだ。

「ふん……。私の気も知らないでっ……。本気で怒ってるんだからねっ……。冬弥くんはいっつも余裕だし、余裕だし、余裕だしっ……!本当に悔しい!」

口を尖らせてぶつぶつと文句を言う咲夏。
その愛らしい拗ねっぷりに困ったように眉を下げつつも、痺れを切らした冬弥は、とっておきの切り札を口にすることにした。

「……そっか。本当は、すっごく美味しいクリスマスケーキがあるんだけどなぁ」

「え?! 食べるっ!!」

ケーキ、という単語が耳に飛び込んできた瞬間、咲夏はぱあっと顔を明るくして冬弥の方を振り返った。
そのあまりにも分かりやすすぎる態度の切り替えに、冬弥はクスリと笑う。

「じゃあ、俺のこと許してくれる?」
「うっ……ぐぬぬ……」

冬弥の意地悪な提案に一瞬だけ葛藤し、咲夏は喉を鳴らした。けれど、大好きな恋人が自分のために用意してくれていた秘密のサプライズには、どうしても勝てなかった。

「……しょうがないなぁ、もうっ!」

咲夏は観念したようにふわりと笑うと、冬弥の両手首に巻かれていたスカーフを優しく解いてあげた。

その後、一階の冷蔵庫から運ばれてきたのは、生クリームと真っ赤なイチゴで彩られた、小さくて可愛らしいクリスマスケーキだった。
お互いにスプーンを手に取り、一つのケーキを仲良く突き合う。口いっぱいに広がる甘い幸せは、先ほどまでのドタバタとした気まずさを、すべて優しい温もりへと変えていくようだった。

「美味しいね、冬弥くん」

「うん。咲夏が喜んでくれて良かった」

冬弥の穏やかな笑顔を見つめながら、咲夏は静かに微笑む。
いつも余裕たっぷりで意地悪な冬弥だけれど、その根底にあるのは、いつだって自分を喜ばせようとしてくれる真っ直ぐな愛なのだと、咲夏はちゃんと知っていた。不器用な二人の特別な夜を、そのケーキはまるで、二人の愛の形そのものを表すように甘く彩っている。

ふと、冬弥が窓の外に目を向けた。

「あ、見て。雪」

手元から視線を上げ、咲夏も窓の外を見つめる。
暖かな部屋のガラスの向こう、夜の闇が広がる街に、白い雪がパラパラと静かに舞い降り始めていた。

付き合って初めて迎えた、二人きりのクリスマス。
たくさんドキドキして、たくさん空回りして、たくさん振り回されたけれど、咲夏の胸の中は、降り積もる雪とは対照的に、どこまでも温かい幸福感で満たされていた。