クスクスと楽しそうに笑いながら、恋愛映画のDVDをケースに片付けたり、テレビのリモコンを定位置に戻したりしている冬弥の背中を、咲夏は床に座り込んだままじっと睨みつけていた。
胸の奥で、恥ずかしさと悔しさがふつふつと膨れ上がっていく。
(もう、冬弥くんのバカ。いっつもそうやって余裕ぶって、意地悪ばっかりして……!悔しい、このままじゃ絶対に気が済まない。一泡吹かせて、仕返ししてやるんだから!)
一度火がついたギャルの負けん気は、そう簡単に収まらなかった。
咲夏は音もなく立ち上がると、無防備にソファに腰掛けていた冬弥の胸元めがけて、今度は明確な意志を持って突っ込んだ。
「うわっと!?」
二度目の押し倒し。
完全に不意を突かれた冬弥は、ソファの背もたれに背中を打ちつけ、驚きで目をパチクリとさせて固まった。
「え? 咲夏? ど、どーしたの、急に……」
動揺を見せ始めた冬弥の隙を、咲夏は見逃さなかった。
自分のウエストにアクセントとして巻いていた、薄手の細いスカーフを素早い手つきで解く。
そして、抵抗する間も与えず、冬弥の両手首を交差させてスカーフで手際よくぐるぐる巻きにくくりつけた。
「ちょっと、咲夏……?」
「ふふん、形勢逆転っ!」
咲夏は乱れた髪をそっと耳にかけ、冬弥の胸元に手のひらをピタリと当てた。
上から見下ろす咲夏の瞳には、いつも振り回されてばかりの自分を卒業してやる、という強い光が宿っている。
「冬弥くんこそ……私に、襲われるかもって、一ミリも思わなかったの?」
少しだけ声を低くして、からかうように囁き返してやった。冬弥は大きく目を見開いたまま、至近距離にある咲夏の顔をじっと見つめている。
(よし、さすがの冬弥くんも、これには焦って――)
そう確信した次の瞬間、冬弥の驚きに満ちていた顔が、じわりと別の笑みに変わった。
縛られた両手をソファの上に投げ出したまま、冬弥はふっと息を漏らすように微笑む。
「ふーん……。じゃあ、いーよ? 咲夏の好きにして」
「っ……!」
またしても、その一言だった。
降参するどころか、すべてを受け入れるような、底知れない大人の余裕。それを見せつけられた咲夏は、またしても敗北感を味わい、ムッとして眉をひそめた。
すると、下から見上げてくる冬弥の瞳に、今度は少しだけ挑戦的な色が混じる。
「あれ?どうしたの?ほら、服のボタン外していいよ?」
挑発するように首元を動かして笑う冬弥。
(あーもう、本当に憎たらしい……! そこまで言うなら、絶対に後悔させてやるんだから!)
咲夏はゴクリと生唾を飲み込み、震える指先を冬弥のシャツの第一ボタンへと掛けた。
パチン、と小さな音がして、ボタンが外れる。そのまま第二、第三と、一つずつゆっくりとボタンを外していくたび、自分の心臓の音が部屋中に響いてしまうのではないかと思うほど激しく高鳴った。
開かれた布地の隙間から、冬弥の白く引き締まった肌が露わになっていく。
綺麗に形浮き出た鎖骨と、男の子らしい喉仏が上下する、色気のある首筋。
それらが目の前に現れた瞬間、咲夏は思わず息を呑み、指先を止めてしまった。



