夏と冬が重なれば。番外編


(……え? 冬弥くん?)

あまりにも長いラブシーンの気まずさに耐えかね、咲夏が恐る恐る、そろりと首を動かして隣を盗み見た。
すると、冬弥はソファの背もたれに深く身体を預け、規則正しい呼吸を繰り返しながら、スヤスヤと気持ち良さそうに眠っていた。

(え?!! 寝てる? 冬弥くん、寝てるんだけどぉお!?)

画面の向こうでは今も熱烈な大人の恋愛模様が繰り広げられているというのに、当の本人は完全なる夢の中。咲夏の脳内は一瞬だけ別の意味でパニックに陥ったが、同時に全身の余計な力が一気に抜けていくのを感じた。

(なんだ……。私、ひとりで色々と先走りすぎて、考えすぎてたじゃん)

恥ずかしさと安堵が混ざった複雑な息を吐き出す。しかし、このまま生殺しのような恋愛映画を流し続けられるのは精神衛生上よろしくない。
そうだ、この隙に映画を別のものに変えてしまおう。咲夏はそう思い立ち、テレビを操作するためのリモコンを探した。

だが、運悪くリモコンが置いてあったのは、冬弥の身体を挟んだ向こう側の端だった。

リモコンを回収するためには、眠っている冬弥の上をそっと跨ぐようにして、手を伸ばさなければならない。
(起こさないように、静かに、素早く……!)

咲夏はゴクリと生唾を飲み込み、膝をソファについて、冬弥の身体の上へゆっくりと覆いかぶさるように体勢を傾けた。冬弥の整った寝顔がすぐ目の前に迫り、再び心臓がうるさく鳴り響く。
緊張で指先を震わせながら、あと一歩でリモコンに届きそうになった、まさにその瞬間だった。

「……んっ? あれ? ……咲夏、ってうわぁっ!」

不意に、冬弥の長い睫毛が揺れ、その瞳がパチリと開いた。
目覚めた瞬間、自分の真上に大好きな彼女の顔があることに驚いた冬弥が、思わず身体をビクッと跳ね上げる。

「きゃっ!」

予期せぬ冬弥の拒絶に近い反応に、咲夏はバランスを完全に崩して手を滑らせた。支えを失った咲夏の身体が、そのまま冬弥の胸元へと倒れ込む。
結果として、咲夏は冬弥の身体をソファへと思い切り押し倒す形になってしまった。

短い悲鳴をあげたあと、恐る恐る目を開けた咲夏は、目の前の凄まじい光景に息を呑んだ。

ソファに背中を打ちつけた冬弥と、その冬弥の身体を両手で挟み、完全に組み敷くようにして上に乗っかっている自分。
お互いの鼻先が触れ合いそうなほどの至近距離で、冬弥は驚きに目を見開いたまま、顔を真っ赤にして固まっている。

静まり返った部屋の中で、映画のロマンチックなBGMだけが、二人の重なる鼓動を急かすように鳴り響いていた。