冬休み前にあんなドタバタのやり取りがあってから、あっという間に時間は流れ、咲夏は今、人生最大の大ピンチを迎えていた。
きょろきょろと周りを見渡すと、そこは小説が綺麗に並べられた本棚など、家具がすっきりと揃えられたシンプルな男の子の部屋だった。
そう、今日このクリスマスの日。咲夏は他でもない、冬弥の部屋に遊びに来ているのである。
(どどどど、どうしようっ!!?男の子の家とか初めてだし……!それに、それにっ!)
咲夏がここまでパニックになっているのは、数分前に玄関先で冬弥が放ったひと言のせいだった。
『あ、ちなみに今日は、親が丸一日出かけてて空けてるから。挨拶とかもいらないし、咲夏、緊張しなくていーよ♪』
冬弥はいつも通りの爽やかな笑顔でそう言っていた。だが、このシチュエーションでは、親がいないことによる『冬弥との二人きり』という事実の方が、かえって咲夏を何倍も緊張させてしまっている。
しかも、自分のすぐ後ろにあるふかふかなベッドが、冬休み前に中庭で怜に相談した内容を思い出させてしまい、なんだか妙に生々しく感じられた。
咲夏はベッドから距離を取るように床に座り込み、近くにあったクッションをぎゅっと胸元に抱え込んだ。
(きゃー!ベッド!ベッドがあるよ!どうしよう今日の下着大丈夫だよね?!……じゃなくて!落ち着け私!)
脳内ですっかりパニックになりながら、ジタバタと身悶えする。
そんな咲夏の限界寸前な葛藤をよそに、一階のリビングでは、冬弥が二人のための飲み物を用意していた。
マグカップを二つ並べ、温かいココアを注ぐ。そして、ふと思い出したように冷蔵庫のドアを開けた。
白い冷蔵庫の棚の奥には、小さくて可愛らしいクリスマスケーキの箱がひっそりと出番を待っていた。咲夏にはまだ、ケーキを買ってあることすら伝えていない。
「ふふ、驚いてくれるといいな」
冬弥はケーキの箱を見つめながら、クスリと愛おしそうに笑った。
「咲夏に、あとでサプライズしよう」
そう静かに呟き、冬弥はトレイにココアを載せて、大好きな彼女が待つ二階の部屋へと階段を上り始めた。付き合って初めて迎える、特別なクリスマスの時間は、まだ始まったばかりだった。



