夏と冬が重なれば。番外編

「そろそろクリスマスでしょ?だだだだってもしかしたら、冬弥くんのおおおお家とか?!へへへ部屋とかっ!!べべべベッドとか……!?行くかもしれないじゃん?そしたら私っ、ししし勝負下着はつけといた方がいいのかとかっ……」

「おいおいおいおい!!ちょっと待て待て待て待てぇ!!」

咲夏の妄想が暴走しかけたその瞬間、怜が全力の制止をかけた。両手を激しく振って、咲夏の言葉を強引に遮る。

「咲夏、落ち着けよっ!」

怜の顔は、さっきコーラを吹き出した時よりもさらに真っ赤になり、まるで熟しきったトマトのようだった。
男友達として聞くにはあまりにも生々しすぎる単語のオンパレードに、脳の許容量を超えて怒鳴ってしまっている。

しかし、咲夏もここで引き下がるわけにはいかなかった。

「怜くん酷いっ! 私、真剣に、悩んでるんだよ!?」

負けじとベンチの上で体を乗り出し、怜の顔の前にグイッと詰め寄る。

「……っ」

至近距離で迫る咲夏の必死な眼差しに、怜はあからさまに視線を逸らした。
コホン、とわざとらしい咳払いを一つ挟み、天を仰いで深長いため息をつく。

「とりあえずお前は落ち着け。あのな、俺が冬弥の下着の好みなんて知るわきゃねーだろ」

あー!クソ!と、怜はまるで湧き上がる羞恥心を振り払うかのように、自分の髪をガシガシと手荒にかき回した。
しばらくそうして葛藤していたが、やがて諦めたように手の動きを止め、少しだけ声をトーンダウンさせる。

「とにかくだ!冬弥はお前が、そのっ……、嫌がるような事は絶対しねぇから……安心しろ」

それだけを早口で告げると、怜はぶっきらぼうに手を伸ばし、咲夏の頭をポン、と一度だけ優しく叩いた。

「けど、万が一お前を泣かすような事したら、俺がお前の分まであいつをぶん殴ってやっから。そんだけだ。じゃーな!」

怜はそれ以上一言も喋らせないという強い意志を示すように立ち上がると、耳元だけを真っ赤に染めたまま、大股で中庭を去っていった。

冷たい冬の風が吹くベンチに、咲夏は一人ポツンと取り残される。

「え?ちょっと怜くん!?結果的に答えになってないんだけどぉお!」

遠ざかる怜の背中に向けて叫んだ咲夏の抗議は、静かな中庭の空気に虚しく吸い込まれていった。

手の中のココアはすっかりぬるくなっていたけれど、怜の不器用で温かい優しさに触れたせいか、咲夏の胸の奥の緊張は不思議と少しだけ和らいでいた。


(…………てか怜くん、初めて私の名前呼んだよね!?)


そう気が付いた頃には、風が一段と冷たくなっていた。