「皆楽しそうだね、何の話?」
机の上でジタバタと身悶えしていた咲夏の頭上から、不意に低くて心地よい声が降ってきた。
そこにいたのは、いつの間に近づいてきていたのか、手に入用な書類を持った冬弥だった。
「ひゃっ、と、冬弥くん!?」
咲夏は飛び上がるようにして背筋を伸ばし、一瞬にして顔を硬直させた。
今の会話、もしかしてどこからか聞かれていたのでは。キスがどうの、おこちゃまがどうのという恥ずかしすぎるやり取りが脳裏を駆け巡り、咲夏は内心ヒヤヒヤしながら冷や汗を流す。
だが、そんな張り詰めた空気を、我が道の天才である知華が読むはずもなかった。
知華はこれ以上ないほど邪気のないニヤニヤ顔を浮かべると、身を乗り出して冬弥に話しかけた。
「あのねぇ、冬弥く〜ん!咲夏ちんたら、クリスマスのために早く勝負下っ――」
「うぐっ、むぐぐぐっっ!!」
知華が「着」と言い切るよりも早く、咲夏が電光石火の早業で知華の背後に回り込み、その口を両手で全力で塞ぎにいった。
「ちょっと知華っ!今、白昼堂々ととんでもないこと言おうとしたでしょ!!めっ、絶対にダメ!!」
咲夏は耳の先までリンゴのように真っ赤にしながら、知華の頭をぐりぐりと抱え込んで必死に抗議する。
口を塞がれた知華は「むー!むー!」と手足をバタつかせて暴れていた。
その様子を見ていた那智は、ついに耐えきれなくなった。
「ぶっ、ははははは!あははははっ!」
那智は机に突っ伏し、お腹を抱えて盛大に爆笑した。
高校デビューしてから、こんなに声を上げて笑ったのは初めてかもしれない。
知華のぶっ込み具合も、咲夏の必死すぎるディフェンスも、面白すぎて涙が出てくる。
一方、話を途中で遮られた当の冬弥は、状況がさっぱり掴めないといった様子で、首を小さく傾げた。
「ん?勝負?何か女子たちで、新しく勝負でもしてたの?」
少しの濁りもない、あまりにも爽やかな冬弥の笑顔。
その無垢な視線に耐えかねた咲夏は、引きつった笑みを浮かべながら、知華を解放して無理やり話をでっち上げた。
「あ、あはははは!そ、そうなの!今ね、みんなでジュースの早飲み対決をするところだったの!あー、喉渇いたなぁーっ!じゃ、ちょっとジュース買ってくるぅぅぅ!」
咲夏は早口でそれだけを捲し立てると、真っ赤な顔のまま、ものすごいスピードで教室を飛び出していった。
「え、早飲み?咲夏、あんなに急いでどうしたんだ?」
ぽつんと取り残された冬弥が、不思議そうに彼女の去ったドアを見つめている。
「さあな。ただの照れ隠しだろ」
那智はまだ笑いの余韻で肩を震わせながら、ストローをくわえ直した。
クリスマス直前の、どこまでもピュアで、少しだけ不器用な空回り。
親友のそんな可愛い大慌てを見送る昼休みは、寒さを忘れるくらいに賑やかで、愛おしい時間だった。



