夏と冬が重なれば。番外編


「あのね……私が大好きなあの小説を、すっごく真剣な表情で、大切そうに見つめる那智の姿を見てたらね。なんだか思わず声をかけたくなっちゃったの」

咲夏の歩みが止まる。私もつられて足を止めた。窓からの光を浴びて、咲夏の瞳が綺麗にきらめいている。

「自分の好きなことを大切にして、それを共有できる友達って、なかなかいないでしょ? あのとき、本棚の前にいた那智を見てたらさ……あぁ、私、絶対にあの子と友達になれる気がする!って、直感で思ったんだよね」

咲夏はそう言って、あの出会った日と少しも変わらない、眩しくて可愛い笑顔を私に向けた。

「そっか……」

咲夏の真っ直ぐな言葉が、胸の奥の一番柔らかい場所にじんわりと染み込んでいく。
正論モンスターだと気味悪がられ、ヤンキーだと怯えられ、ギャルだと偏見の目を向けられてきた私。だけど咲夏は、そんな私の『鎧』の隙間から覗く、たった一つの素直な部分を見つけて、信じてくれたんだ。

あの日、あの本を手に取って本当に良かった。菜々緒さん、ありがとう。
そんな思いが込み上げてきて、私の口元が、自然と緩んでいくのを止められなかった。

「……あ、あーーーっ!!」
静かな廊下に、突如として咲夏の黄色い悲鳴が響き渡った。

「な、何だよ急に!びっくりすんじゃん!」
「那智が!今、那智が初めて笑った!!」

咲夏はこれ以上ないほど嬉しそうに顔を上気させ、私の両手を掴んでぴょんぴょんとはしゃぎ始めた。
「うそっ、めちゃくちゃ可愛いじゃん! 知華にも見せたかったー! もう一回! もう一回笑って、那智!」
「うるさい、笑ってないし! ほら、早くジュース買いに行くよっ」

私は真っ赤になった顔を隠すように、咲夏の手を引いて早足で歩き出す。
文句を言いながらも、私の心は、この初夏の青空みたいにどこまでも澄み切っている。