「……ありがと」
店の外、少し騒がしい駅前の雑踏の中で、私はぽつりと呟いた。
他人に「ありがとう」なんて言葉を口にしたのは、一体何年ぶりのことだろう。不器用で、どこかぎこちない私の声に、その女の子――彼女は、ぱっと顔を輝かせた。
「ううん! 見ず知らずなのに勝手に友達って言っちゃってごめんね!私、安達咲夏っ。よろしくね!」
咲夏、という名前にぴったりな、まるで満開の向日葵のような笑顔だった。その眩しさに気圧され、私は少しだけ視線を泳がせる。
「あー……私は澤木那智。えーと、さっき言ってたことって……」
さっき店員に向かって言い放った『ずっと片時も離れず見てました』というセリフ。それを思い出し、少し怪訝そうな顔をしてしまった私を見て、咲夏は「あ!」と両手を振って慌て出した。
「ごめんなさい! さすがにちょっと言い過ぎたよね! ずっと見てたとか、普通に考えたらストーカーみたいで怖いよねっ!じゃなくてね、あの小説……!」
咲夏は照れくさそうに頬を染めながら、本屋の棚の方向を指差した。
「私、あの小説が本当に大好きなの! だから、同じ制服のどんな子が読んでるのかなって気になっちゃって……勝手にジロジロ見ててごめんなさいっ」
深く頭を下げる咲夏を見て、私は拍子抜けしてしまった。
菜々緒さんが愛してやまなかった、あのSNSで人気の小説。それが、この目の前の眩しいギャルと私を引き合わせたのだと思うと、なんだか不思議な運命を感じずにはいられない。



