夏と冬が重なれば。番外編

「……っ」

ふと、近くに人の気配を感じて、私は本から目を離さずにチラリと視線だけを横に走らせた。
そこには、三十代くらいの中肉中背のサラリーマンが立っていた。あちこちをソワソワと見回し、妙に落ち着きがない。あからさまに怪しいオーラを放ちながら、本棚の周りをうろついている。

私はページをめくるフリをしながら、視界の端でその男の動きを追った。
数分後、周りに他の客がいないと確信したのだろう。そのオッサンは一瞬の隙を突き、棚から抜き取った一冊の雑誌を、自分のビジネスバッグの中へするりと忍ばせた。

(……やりやがったな)

私は小さく呟き、持っていた小説を棚に戻した。
言い逃れのできない、完璧な万引きの瞬間だった。
男は何食わぬ顔で歩き出し、そのままレジを素通りして出口へと向かっていく。私は足音を殺しながら、一定の距離を保ってその背中をつけた。

自動ドアが開き、男が完全に店の外へと出た瞬間、私は一気に距離を詰めた。

「おい、オッサン」
「うおっ!?」
「レジ、忘れてんだろ」

私は男の背後から、スーツの首根っこをガシッと力任せに掴み取った。エクステをつけた長い金髪をなびかせ、爪を立ててギリギリと締め上げる。
驚いたオッサンは顔を真っ赤にし、私の手を振り払おうと暴れ狂った。
「なんだっ! 君は!! 放せ、放せっ!!」
「大人しくしろよ、泥棒が」
男が必死に抵抗し、体を大きくひねったその時、半開きになっていたバッグの隙間から、先ほどの雑誌が勢いよく入り口の外へと弾け飛んだ。アスファルトの上を激しい音を立てて滑っていく。

「ちょっと、何事ですか!?」

騒ぎに気づいた店の奥から、男性店員が血相を変えて外へ駆けつけてきた。
「あ、店員さん。ちょうど良かった。このオッサン、中で雑誌を万引きして――」
私が状況を説明しようとした、その時だった。

店員は私の言葉を遮るように、私の姿を上から下まで、チラリと冷ややかな目で値踏みしてきた。
金髪の髪、ギャルメイク、限界まで短いスカート。
その瞬間、店員の目に明らかな偏見の色が混じる。

「……君が万引きしたんじゃないの?それをこの人に擦り付けようとしてるんじゃ……」