夏と冬が重なれば。番外編



それから、高校に入学してしばらくの時間が流れた。
私の新生活は、一言で言えば「相変わらずひとり」だった。

派手な見た目と、隠しきれない気の強そうなオーラ。周りの女子生徒たちは私を遠巻きに眺め、男子生徒たちは品定めするような視線を向けてくるだけ。
まあ、高校デビューしたからって、すぐに都合よくダチができるなんて期待はハナからしていなかった。むしろ、誰も気安く話しかけてこないこの距離感は、家族のことに集中したい今の私には好都合だった。

ある日の放課後。
私は用事のついでに、駅前にある少し大きめの本屋へと立ち寄った。特に買いたい本があったわけじゃない。ただ、なんとなく時間を潰したかった。

平積みのコーナーをくるりと回った時、視線がある一角でピタリと止まった。

そこには、これでもかというほど大量に積み上げられた、一冊の小説があった。
桃色の鮮やかな帯には、デカデカと『SNSで話題沸騰!人気No.1のラブストーリー!"蝶々結び"』という文字が躍っている。表紙に描かれた綺麗なイラストを見つめているうちに、私の脳裏に、あの懐かしい特攻服の背中がよぎった。

(あ……これ、菜々緒さんが言ってたやつだ)

レディースのたまり場で、総長の菜々緒さんが「これマジで泣けるからお前らも読め」と、恥ずかしそうに、だけど愛してやまない様子で何度も勧めてきた小説だった。あの時は「暴走族のトップが小説なんて読むなよ」とみんなで笑っていたけれど、菜々緒さんは本当に大切そうに、その本のページをめくっていた。

「……ふーん」

私は誰もいない通路で、その小説を一冊、そっと手に取ってみた。
あの不器用で、誰よりも優しかった人が愛した物語。
ポカンと穴の空いていた私の胸の奥に、少しだけ温かい風が吹き込んだような気がした。