ごきげんよう、私の可憐なお嬢様

 本物の紬葵にすべてを白状させられた翌日。
伍は相変わらず、実家のリビングのソファでスマートフォンを握りしめて悶々としていた。

『伍、どうしても君に会いたい。今からそっちに行ってもいいかな?』

 そんな奏汰からのメッセージが届いたのは、わずか一時間前のこと。
伍が慌てて
『いや待て、実家には今、あの凶暴な本物の姉貴が――』

と返信を打とうとした時には、すでに遅かった。

 ピンポーン、と。
我が家の年季の入ったインターホンが、無慈悲に鳴り響いた。

「はーーい、どちら様ですかー?」

 キッチンでアイスを食べていた姉、紬葵が、チャラチャラとした軽い足取りで玄関へと向かっていく。

「待て、紬葵! 俺が出る――っ!」

 伍が慌ててソファから飛び起きて玄関へ走ったが、すでに姉の手によってドアは勢いよく開け放たれていた。

「ごきげんよう。有栖川紬葵さんの、おうちで合っていますか……?」

 玄関口に立っていたのは、清泉学園の完璧なお嬢様「西園寺麗華」……では、断じてなかった。
仕立ての良い白シャツの袖をまくり、スタイリッシュなスラックスを穿いた、線の細い、だが肩幅のしっかりとした超絶イケメンな少年。

 ウィッグを外し、切れ長の瞳を少し恥ずかしそうに揺らしている
――本物の男の姿の、西園寺奏汰だった。

「うっわ、マジで超絶イケメンじゃん……。あんたが西園寺麗華、いや、奏汰くん?」

 紬葵はセンター分けの前髪を指先でクイッと上げながら、値踏みするような鋭い視線で奏汰をジロジロと見つめた。
チャラそうに見えるが、その瞳の奥には
「私の大事な弟を本当に幸せにできるのか」
という、実の姉としての真面目な品定めの光が宿っている。

「は、はい。西園寺奏汰です。君が……本物の、有栖川紬葵さん、ですか?」

「そうそう! 伍に女装押し付けて駆け落ちした、世界一可愛いお姉ちゃんでーす。
まぁ、浮気男は即殴って別れて帰ってきたけどね!」

「ちょっ……紬葵、お前いきなり初対面の奴に何言ってんだよ!」

 伍が顔を真っ赤にして2人の間に割って入った。
男の姿の奏汰と、男の姿の自分が、実家の玄関で並んでいる。
それだけで心臓がバクバクと破裂しそうなほど暴れ出す。

「まぁ、立ち話も何だし、上がりなよ。お茶くらい淹れてあげるからさ」

 紬葵はフッと不敵な笑みを浮かべ、奏汰をリビングへと招き入れた。

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リビングの座卓を挟み、奇妙な三者面談が始まった。

「……で? 奏汰くんさ。口調はチャラいけど、私、嘘つきと不誠実な奴だけは絶対に許さないタチなんだよね。
あんた、うちの伍をただの『珍しい女装男子』として面白がってんじゃないの?」

 紬葵は麦茶のコップをトントンと叩きながら、あえて意地の悪いトーンで奏汰に詰め寄った。
言動はチャラそうだが、弟への想いは本物だ。

 そんな姉の威圧感(覇気)を正面から受け止めながら、奏汰は少しも怯むことなく、まっすぐに紬葵の目を見返した。

「違います。僕は、伍が女の子の紬葵ちゃんだった時から、彼の真っ直ぐなところに惹かれていました。
男だと分かった時も、騙された怒りなんて微塵もなくて、ただ『一人の男として、彼を本気で愛せる』って、心から嬉しかったんです。僕の気持ちは、そんな軽いものじゃありません。」

 奏汰はそう言い切ると、座卓の下から伍の手をそっと手繰り寄せ、力強く指を絡ませた(恋人繋ぎ)。

「ひゃっ……!? か、奏汰、お前、姉貴の前で何して……っ!」
「いいだろ、伍。一ヶ月も会えないなんて、僕には無理だ」

 低い、熱を持った少年の地声で囁かれ、伍は完全に茹でダコのように真っ赤になって黙り込んでしまった。
衣服越しに伝わる奏汰の男の体温と、その圧倒的な独占欲に、伍の理性は一瞬で溶かされていく。

 そんな2人のアツアツな様子(公式の供給)を目の当たりにした紬葵は、一瞬だけ呆気に取られた後、ふっと満足そうに口元を緩めた。

「……へーえ。言うじゃん、奏汰くん。うん、合格! あんた、チャラチャラした見た目の割に、中身はめちゃくちゃ一途で男前だわ。うちのヘタレな伍にはもったいないくらい!」

「つ、紬葵……っ!」

「いいじゃん! よーし、お姉ちゃん公認のカップル誕生ってことで、今夜は3人で美味しいものでも食べに行こ! 奏汰くん、伍を実家から連れ出してデートするなら、私が完璧にアリバイ作ってあげるからさ!」

 チャラそうに見えて、誰よりも一途な純愛の味方であるお姉ちゃん。
彼女の強力すぎるバックアップ(&冷やかし)が加わり、伍の夏休みは、さらに糖度とハラハラ度を増していくのだった。
教室では清らかな白百合、夜の寝室では情熱的な赤薔薇、そして夏休みの実家ではお姉ちゃん公認の恋人同士。

 清泉学園の乙女たちは、そしてこの世界の誰もが、この少年二人のロマンスが、実家のリビングでここまで加速していることを、まだ何も知らない。