激動の水泳授業が終わり、清泉学園は明日から待望の「夏休み」に突入する。
生徒たちが実家への帰省準備で慌ただしく行き交う夜、寄宿舎204号室の中だけは、まるで世界の果てのように静まり返っていた。
「……明日から、しばらく会えなくなるんだな」
ベッドの上に腰掛け、自前の短い黒髪をガシガシと掻き揚げながら、伍は地声の低いトーンでぽつりと呟いた。
すでに頭のウィッグは外し、スカートも脱ぎ捨てて、男物のTシャツとハーフパンツ姿。
向かいのベッドでは、同じくお嬢様の仮面を脱いだ西園寺奏汰が、静かにこちらの様子を窺っていた。
男同士だと分かってから、部屋での距離感はどこかギクシャクしていた。
だが、明日から一ヶ月間、奏汰のあの格好いい少年の声も、自分を包み込んでくれた大きな手の温もりも感じられなくなるのだと思うと、伍の胸には泥のような寂しさが押し寄せていた。
「そうだね、伍」
奏汰がベッドから立ち上がり、ゆっくりと伍の元へ歩いてくる。月光が差し込む窓際。
少年の姿の奏汰は、息を飲むほど端正な顔立ちをしていて、その切れ長の瞳は、まっすぐに伍だけを射抜いていた。
「……伍、実家に帰るの、やめない?」
「はぁ!? 何言ってんだよバカ。実家に帰らなきゃ、不審に思われてそれこそ女装潜入がバレるだろ」
伍は照れ隠しにぶっきらぼうに返した。だが、奏汰はからかうような表情を見せず、伍の目の前にしゃがみ込むと、
伍の少しゴツゴツした男の手を、両手でぎゅっと握り締めた。
「バレてもいい。……いや、バレたくはないけど、それくらい一ヶ月も君に会えないのが、僕にとっては耐え難いんだ」
「かな、た……?」
繋がれた手のひらから、奏汰の強い熱が伝わってくる。
奏汰の瞳は、これまでのどんなハプニングの時よりも真剣で、男としての強い覚悟に満ちていた。
「最初は、ただ守らなきゃいけない可憐な女の子だと思ってた。
でも、君が僕と同じ『男』だと知った時、ショックよりも先に、猛烈に安心したんだ。
……あぁ、これで僕は、一人の男として、君を本気で好きになってもいいんだって」
「っ――!?」
伍の心臓が、今日一番の爆音を立てた。耳の奥まで一気に熱が上っていく。
「西園寺麗華としてじゃなく、西園寺奏汰として、君が好きだ。
有栖川紬葵として演じている君も、今こうして男の姿で僕に怒ってる君も、全部愛おしい。
……伍、僕と、付き合ってほしい」
お嬢様言葉でもない、ソプラノの裏声でもない。一人の少年としての、低く、少し震える、命懸けの『本物の告白』。
伍はあまりの衝撃に言葉を失い、真っ赤になった顔を隠すように視線を彷徨わせた。
(男同士だぞ……。ここは女子校で、俺たちは女装してて……。なのに、なんでこんなに嬉しいんだよ……っ!)
唇に残るキスの熱、ロッカーや水中で抱きしめられた時のあの逞しい胸板の感触。
全てが脳裏を駆け巡り、伍の理性の防波堤を完全に決壊させた。
伍はギュッと奏汰の手を握り返し、消え入りそうな地声で本音を絞り出した。
「……ずるいだろ、お前。そんな格好いい声で、そんなこと言われたら……断れるわけねえじゃん」
____________________________________________________________
「(……ああ! お二方のあの完璧な微笑みの裏側! 微かにお互いの唇を見つめ合うあの視線の熱量……!
昨夜、あの部屋でついに『真の結合(告白)』が執行されたに違いありませんわ……ッ!!
これで夏休み中、私の脳内二次創作の燃料は永久機関となりましたわね……! 神よ、二人に幸あれ……ッ!!)」
鼻血をハンカチで抑えながら、ガッツポーズで天を仰ぐ凛々様。
お互いのすべてを受け入れ、本当の恋人同士になった男二人。
清泉学園の夏は、二人の少年の胸の中に、誰にも言えない熱い情熱の炎を灯したまま、眩しく幕を開けるのだった。
生徒たちが実家への帰省準備で慌ただしく行き交う夜、寄宿舎204号室の中だけは、まるで世界の果てのように静まり返っていた。
「……明日から、しばらく会えなくなるんだな」
ベッドの上に腰掛け、自前の短い黒髪をガシガシと掻き揚げながら、伍は地声の低いトーンでぽつりと呟いた。
すでに頭のウィッグは外し、スカートも脱ぎ捨てて、男物のTシャツとハーフパンツ姿。
向かいのベッドでは、同じくお嬢様の仮面を脱いだ西園寺奏汰が、静かにこちらの様子を窺っていた。
男同士だと分かってから、部屋での距離感はどこかギクシャクしていた。
だが、明日から一ヶ月間、奏汰のあの格好いい少年の声も、自分を包み込んでくれた大きな手の温もりも感じられなくなるのだと思うと、伍の胸には泥のような寂しさが押し寄せていた。
「そうだね、伍」
奏汰がベッドから立ち上がり、ゆっくりと伍の元へ歩いてくる。月光が差し込む窓際。
少年の姿の奏汰は、息を飲むほど端正な顔立ちをしていて、その切れ長の瞳は、まっすぐに伍だけを射抜いていた。
「……伍、実家に帰るの、やめない?」
「はぁ!? 何言ってんだよバカ。実家に帰らなきゃ、不審に思われてそれこそ女装潜入がバレるだろ」
伍は照れ隠しにぶっきらぼうに返した。だが、奏汰はからかうような表情を見せず、伍の目の前にしゃがみ込むと、
伍の少しゴツゴツした男の手を、両手でぎゅっと握り締めた。
「バレてもいい。……いや、バレたくはないけど、それくらい一ヶ月も君に会えないのが、僕にとっては耐え難いんだ」
「かな、た……?」
繋がれた手のひらから、奏汰の強い熱が伝わってくる。
奏汰の瞳は、これまでのどんなハプニングの時よりも真剣で、男としての強い覚悟に満ちていた。
「最初は、ただ守らなきゃいけない可憐な女の子だと思ってた。
でも、君が僕と同じ『男』だと知った時、ショックよりも先に、猛烈に安心したんだ。
……あぁ、これで僕は、一人の男として、君を本気で好きになってもいいんだって」
「っ――!?」
伍の心臓が、今日一番の爆音を立てた。耳の奥まで一気に熱が上っていく。
「西園寺麗華としてじゃなく、西園寺奏汰として、君が好きだ。
有栖川紬葵として演じている君も、今こうして男の姿で僕に怒ってる君も、全部愛おしい。
……伍、僕と、付き合ってほしい」
お嬢様言葉でもない、ソプラノの裏声でもない。一人の少年としての、低く、少し震える、命懸けの『本物の告白』。
伍はあまりの衝撃に言葉を失い、真っ赤になった顔を隠すように視線を彷徨わせた。
(男同士だぞ……。ここは女子校で、俺たちは女装してて……。なのに、なんでこんなに嬉しいんだよ……っ!)
唇に残るキスの熱、ロッカーや水中で抱きしめられた時のあの逞しい胸板の感触。
全てが脳裏を駆け巡り、伍の理性の防波堤を完全に決壊させた。
伍はギュッと奏汰の手を握り返し、消え入りそうな地声で本音を絞り出した。
「……ずるいだろ、お前。そんな格好いい声で、そんなこと言われたら……断れるわけねえじゃん」
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「(……ああ! お二方のあの完璧な微笑みの裏側! 微かにお互いの唇を見つめ合うあの視線の熱量……!
昨夜、あの部屋でついに『真の結合(告白)』が執行されたに違いありませんわ……ッ!!
これで夏休み中、私の脳内二次創作の燃料は永久機関となりましたわね……! 神よ、二人に幸あれ……ッ!!)」
鼻血をハンカチで抑えながら、ガッツポーズで天を仰ぐ凛々様。
お互いのすべてを受け入れ、本当の恋人同士になった男二人。
清泉学園の夏は、二人の少年の胸の中に、誰にも言えない熱い情熱の炎を灯したまま、眩しく幕を開けるのだった。

