推しの声がメロすぎて困ってます

今日は進路希望調査票の提出日。

だけど、私はまだ一文字も書けていなかった。

正直、将来の夢なんて特にない。

推し活を続けられれば、それで幸せだった。

「瑠奈は将来どうするの〜?」

ゆあが私の進路希望調査票を覗き込む。

「あれ?白紙じゃん」

「だって思いつかないんだもん」

「そんなの適当に書いとけば?」

梨央奈も隣から笑う。

「適当って言われても……」

「ウチはてっきり、声優目指すのかと思ってた」

会話の輪へ入ってきた瀬那が言った。

「うーん……」

 私は少し考えて首を振る。

「声優さんは、あくまで推しなんだよね」

「なにそれ」

「声優になっちゃったら、推しと同じ立場になるじゃん?それってもう、純粋なファンじゃなくなる気がする」

それに。

自分が声優としてマイクの前に立っている姿なんて、全然想像できない。

「じゃあモデルとか!」

突然、ゆあが声を上げた。

「瑠奈、顔も整ってるし、スタイルもいいじゃん」

「それは思う」

梨央奈も頷く。

「私がモデル?」

思わず笑ってしまう。

「そんな簡単になれる世界じゃないよ」

私より可愛い子なんてたくさんいる。

スタイルがいい子だって山ほどいる。

“なんとなく”で目指せる世界じゃない。

そう思っていた。

すると瀬那が、何気ない口調で言った。

「瑠奈はさ」

「……?」

「誰かの”推し”になりたいって思ったことないの?」

その言葉に、胸が小さく震えた。

誰かの……推し。

そんなこと、考えたこともなかった。

私はずっと、誰かを応援する側だったから。

「瑠奈?」

気づけば三人が不思議そうな顔で私を見ていた。

「あ……いや」

私は慌てて笑う。

「なんでもない」

そう答えたものの、瀬那の言葉は、
その日一日中、私の頭から離れなかった。