転校して三日目の朝。

 教室の窓から差し込む春の日差しは、今日もやわらかかった。

「おはよう、千春」

 教室へ入ると、萌恵が手を振る。

「お、おはよう」

「今日もええ天気やなぁ」

 そう言って窓の外を見上げる萌恵につられ、私も空を見た。

 雲ひとつない青空だった。

 午前中の授業は、昨日より少しだけ落ち着いて受けることができた。

 先生の話を聞きながらノートを取る。

 分からないところは付箋を貼る。

 少しずつ、この教室の時間にも慣れてきた。

 昼休み。

「千春、お弁当一緒に食べよ」

 萌恵に誘われ、中庭のベンチへ向かう。

 桜は満開を少し過ぎ、花びらが風に舞っていた。

「珠代さんのご飯、美味しい?」

「うん」

「ええなぁ。つむぎのおばんざい、めっちゃ好きやねん」

 萌恵は嬉しそうに笑う。

 その笑顔につられ、私も少しだけ頬が緩んだ。

 食べ終えた帰り道。

 教室へ戻ろうと立ち上がった、その時だった。

「あっ」

 足元の花びらで少し滑り、身体が前へ傾く。

「きゃっ」

 慌てて体勢を立て直したものの、少しだけよろけてしまう。

 それを見ていた萌恵が吹き出した。

「あはは、ごめんごめん!」

「もう……」

 自分でもおかしくなってしまう。

 ふっと笑いがこぼれた。

「あ……」

 笑った。

 そんな自分に少し驚く。

 萌恵は嬉しそうに言う。

「千春、笑うとめっちゃかわいいやん」

「そ、そんなこと……ない!」

 照れくさくなって目を逸らす。

 廊下の向こうでは、和が友達と話していた。

 ふとこちらを見て、目が合う。

 一瞬だけ驚いたような表情をしたあと、小さく笑って会釈をした。

 それだけで、また友達との話へ戻っていく。

 その自然さが、どこか心地よかった。

 放課後。

 帰り支度をしながら窓の外を見る。

 春風が桜を揺らしている。

 今日一日を思い返す。

 転びそうになったこと。

 萌恵が笑ったこと。

 私も笑ってしまったこと。

 ほんの小さな出来事だった。

 でも、その小さな出来事が、少しだけ心を軽くしてくれた。

 教室を出ると、廊下の窓から夕暮れの光が差し込んでいた。

 その光は昨日より、少しだけ温かく感じられた。