八月を待って?

 七月も半ばを過ぎたある日。

「もうすぐ誕生日だね」

 居間の壁に掛かったカレンダーを見上げながら、母親が笑った。

「七歳かぁ。大きくなったね」

 言われて、大樹(だいき)は照れくさそうに笑う。

「ケーキ食べたい!」

「ふふ。おばあちゃんにお願いしようか」

 大樹が祖母を見遣ると、祖母は壁のカレンダーへ目を向けていた。

「……あと、七日」

 つぶやかれた声は、誰にも聞こえないほど小さかった。


***


 夜。
 布団へ入った大樹は、居間から聞こえる母と祖母の話し声で目を覚ました。

「ねぇ、お母さん。最近どうしたの? なんだか様子がおかしいけど」

 少しの沈黙。

 やがて祖母が、ぼそぼそと答える声が聞こえてきた。

「……昔からこの辺じゃ、よぉ言うじゃろ?」

「え?」

「七つまでは神のうち。子どもは七つになるまでは、神様からの預かりもんじゃ、って」

 母の笑い声が聞こえる。

「そんな言い伝え、今どき信じてる人なんていないでしょ」

「……だったらどんなにええか」

 答える祖母の声は、少しだけ震えていた。

 布団の中で目を閉じたまま、大樹は小さく首をかしげる。

(神様からの、あずかりもの……?)

 その意味は、よく分からなかった。

 居間からは、それきり誰の声もしなくなった。

 あの白猫も、今夜は姿を見せなかった。

 外では、屋根を叩く雨音だけが静かに響いていた――。