「うぅぅぅぅ……ねむい……」
一コマ目の授業を無事に乗り越えた阿部さんだけど、もうすでに限界が近いみたい。
十分休みの間だけでも、と机に突っ伏した。
よしよし。
わたしたちは一番前の席だし、授業始まったら起こしてあげなきゃ。
とはいえ、次は理科だから多分起きていられると思う。阿部さんは初めてテスト勉強した日に全部の教科で理科が一番好きだって言ってたし。
ニガテ科目も国語は今終わったから、あとは最終コマの社会を耐えれば大丈夫。
最終コマっていうのがちょっと不安だけど、阿部さんはやるって決めたことは絶対やりとげるタイプだから気合いで乗り越えてくれると思う。
十分爆睡した阿部さんは授業が始まるころにムクリと起き上がって、シャーペンをとった。
その直後に鳴る授業開始のチャイム。
すごい性能の体内時計だ……。
今回の合宿で理科を担当するのは、大学院で土壌環境の研究をしているおじいちゃん先生。
普段は高等部の方で校長先生をやってるみたいだけど、中等部にはこういった特別なイベントのときに講師として参加することが多いみたい。
「笑顔がステキ」とか「飼ってるネコちゃんの話がかわいい」とかで色んな生徒から人気なんだとか。
わたしは初めてだけど、阿部さんと月乃さんは初等部のときに何度か受けたことがあるみたい。阿部さんに関しては、理科が好きになったキッカケでもあるらしい。
おじいちゃん先生の求心力、すごい。
今回の理科は一学期でやった植物の復習。時間割には二学期で習う物質の予習も入ってるけど、二人いわく植物の授業は長くなるとのこと。
このおじいちゃん先生、土壌の専門家ってだけあるから植物も詳しいんだろうな。楽しみ。
すごく脱線したな……。
結局復習だけ終わり、予習は次回の授業で、となった。
土のこととか土壌昆虫のこととか微生物のこととか。
好きなアイドルについて教えてくれるときの月乃さんと同じくらいの熱量で、細い目をくわっと見開いて。
最終的に、二年前くらいに公開されたという樹木医が主人公のノンフィクション映画について熱く語りはじめて授業は終わってしまった。
樹木医って職業は初めて知ったけど、秀英大学の方には勉強してる人がいるみたい。
普段の実習授業では、学園内の植物も診てるんだって。
セコイアたくさん植ってたもんね。他にもツバキとか、わたしの知らない植物がたくさんある。
植物一株を健康に保つにも知識と経験が必要だって思うと、街路樹や花壇の見方が変わる気がするな。
円盤化してたら夏休み中に借りてみよう。
職業もののノンフィクション映画はあんまり観てこなかったけど、先生が三十分くらい語ったものだから。
ノートのすみに『柳瀬和樹 〜植物に魅了され、植物に愛された奇跡の男〜』という映画の題名をメモして授業終わりの挨拶をした。
お昼ご飯を食べ終わったら、数学と社会。
お昼休みの間にたっぷり寝たみたいで、あまり眠そうにはしてなかったかな。
ニガテ科目で最終コマだった社会は、神田くんの話を思い出して生き生きしてたくらい。
心の中でわたしが「ここ、神田くんに教わったところだ!」って叫んでるのと同じタイミングで小さくガッツポーズをしたりとかね。
さっきまで眠そうにしてたとは、多分誰も信じられないくらいのスピードでシャーペンが動いてた。
「晴人くんのお陰で全然眠くならなかった! ありがとね!」
「わたしも、神田くんの話を思い出して、すごく楽しかったよ」
「オレの話が二人の役に立ったなら嬉しいな」
勉強会に参加していない月乃さんは首をかしげていたけど、阿部さんの意識を現世に留めるほどの話は気になったみたい。
「私にも今度話聞かせてよ」と言って班員のいる方へ戻っていった。
わたしも戻らないとなぁ……。
うう……ゆううつだよ……。
「牧野さん、大丈夫?」
「あ、うん! 平気だよ!」
こんなところで暗い顔してちゃダメダメ!
心配そうに眉を下げる神田くんに精一杯の笑顔を見せて、永塚さんたちが戻ってくる前に急いで部屋に帰った。

