パチリ、と目が覚めた。
起き上がると、外はまだ薄暗い。時計は朝の四時半を指していた。
ハイキングが中止になるだけあって、雨が窓を打ちつけるような音が響いている。
スマホを開いて、入学前に入れた秀英学園の生徒用アプリを起動する。
このアプリは連絡の確認から課題の提出、欠席連絡までできるから、すごく便利なんだよね。アイコンも見やすいし。わたしは紙の方が見やすいから使ってないけど、締め切りアラームつきのタスク管理帳とかカレンダー式の予定帳も作れるとか。
大学の方で使われていたものが下りてきたから、今は初等部から高等部も同じアプリを使っているらしい。
ホーム画面に入ると、学年メールが一件。
今日の予定が配信されていた。
六時起床で七時半から朝食、八時から授業があるみたいだ。告知されていた英語の特別講師は明日からだから、今日は四科目だけ。
一科目につき二時間、五時半前には授業も終わるみたい。
一学期の復習と、二学期に向けた予習授業かな。だとしたら、九月からは一学期以上に応用が多くなりそう。基礎は身についてる体で話が進むだろうから。
特別推薦枠を外されないようにしっかり予習しなきゃ。
朝ごはんまではまだ三時間あったから、強化合宿用に配られた教本を開いて軽く目を通しておいた。
復習をちゃんとしていたから、昔やった内容でわからない部分っていうのはなくて一安心。
予習の部分でわからないところは事前に赤マルで囲っておいた。ここを重点的に聞いて、それでもわからなければ質問しよう。
あ、三人が起きてくる前に制服に着替えなきゃ。遊びと勉強のメリハリをつけるために授業は制服って言われてたからね。
洗面所で顔を洗って髪を三つ編みに結う。制服を着てメガネをかければいつも通り、少し地味な女の子が不安そうにこちらを見つめていた。
「大丈夫……」
わたしには、たくさんの味方がいる。
だから心配しないで。
鏡に向かってほほ笑みかけると、彼女も小さく笑った。
「おはよー! 空ちゃんよく眠れた?」
七時になって朝ごはん会場に向かうと、阿部さんがいつもより控えめな突進で出迎えてくれた。
最近は阿部さんの突進も勢いを受け流せるようになったから、自然なハグになってると思う。
「うん、ぐっすり。阿部さんもちゃんと眠れた?」
「んー。日付変わってからも起きてたからちょっと眠いー。みんなでトランプしながら恋バナしてたんだ」
ちょっと間のびしたそのしゃべり方に、かなり遅い時間まで起きてたんだろうなぁ、と思う。
「茜、授業中は寝ちゃダメだからね。強化合宿も成績に入るんだから」
「わかってるわかってる〜」
「もお……。私と空ちゃんではさんだ方がいいんじゃないのぉこれ……」
ため息を吐いたのは、同じクラスの月乃たまこさん。
女子が三人しかいないA組では、わたしの貴重な同性友達。アイドルオタクで、月乃さんに聞けば大抵のアイドルは特定できるんだとか。
日本に留まらず、海外アイドルもしっかりチェックしているという徹底ぶり。
趣味はアイドルのライブに行くこと……ではなく、天体観測。曰く、ライブ参戦は呼吸であって趣味の範囲を超えているらしい。
アイドルのことを語っているときは人が変わったみたいだけど、普段はすごくしっかりしていて頼りになる女の子なんだ。
流行についていけないわたしに阿部さんとアドバイスもしてくれてて、少しだけなら自分でも可愛いヘアアレンジができるようになった。今回は合宿だからやらないけどね。
八月にある夏祭りに行くときはやってみるつもり。
「空ちゃん。私たちで、なんとしてでも茜を現世に留めるわよ!」
「うん! ……うん? 現世?」
「ご飯のあとってだけでも眠くなるのに、寝不足なら居眠り確定よ。A組で二人しかいない同性友達を一人失うわけにはいかないわ! なにがなんでも起こすのよ!」
「う、うん!」
勢いで返事をしちゃったけど、三人のうち一人がA組から脱落……となると困る。
A組はクラス替えがないけど、態度の部分で成績が落とされると通常クラスの方に移ることになってしまう。
阿部さんなら変わらず仲よくしてくれるだろうけど、A組と通常クラスでは時間割が違うし、夏休みに入ってる授業の数も多め。関わる機会は今より少なくなっちゃう。
「名づけて、茜の落第阻止隊!」
「あたしすっごい子供扱いされてる……早生まれだから……?」
安心してね、阿部さん! 阿部さんの席はわたしたちが守ってみせるから!
月乃さんと二人でガッチリと握手をして、阿部さんの両隣に座ることが決定した。

