恋愛初心者②〜強化合宿で事件発生!?〜



 ひとしきり屋台の軽食を楽しんだので、そろそろ花火に備えて家に帰ることにした。


 お兄ちゃんに渡すお土産もちゃんと買ったし、これより遅くなると、花火のために立ち止まる人が増えてまともに歩けなくなるかもしれない。


 まだメインイベントの花火が始まっていないから、わたしたちは人波に逆らって歩くことになる。

 普通ならぶつかったりしてもおかしくないんだけど、バスケ部で動体視力がいい秦くんはスイスイとわたしの手を引いて歩いていく。


 ときどき、「足痛くない?」と聞いてくれるのも忘れずに。

 すれないように最初からばんそうこう貼ってきたから大丈夫!
 数時間歩いたから大分歩きなれたしね。

 そう言うと、「ばんそうこう……その手があったか」とボソッとつぶやくのが聞こえた。


 もしかして秦くん、ちょっと足痛いのかな。
 今からでも休みたいって言った方がいいかな。

 いやでも、この辺り座れるとこないし家に帰った方が早いよね。


 とかぐるぐる考えているうちに着いた。

 うう……結局言い出せなかった……。次こそは……!


 玄関を開けると三階の部屋からかすかにピアノの音が。

 今日は大学のオープンキャンパスがあるって言ってたけど、この感じだと結構前に終わったみたい。わたしの知らない曲を上機嫌で演奏してる。



 見てないのにわかるのは、お兄ちゃんは機嫌がいいときほど超絶技巧を弾きたがって、イヤなことがあった日はバラードを好んで引くから。

 なにがあったかはわからないけど、イヤなことがないのはいいこと。


「俺、音楽は全然わからないけど、あれがすごいっていうのはわかる……」

 音が聞こえる方を見つめてそうこぼす秦くんに、いつかお兄ちゃんの演奏会に誘ってみようかなと思った。


 今のところはホールを借りてお客さんを入れずにライブ配信って形でやってるけど、有観客コンサートのリクエストも来てるみたいだし。

 下駄をぬいで箱にしまい、秦くんには先に部屋に行ってもらった。
 お母さんたちは毎回外で花火を見るから、あと一時間半は帰ってこないだろうな。

 あ、でも玄関の方は電気ついてた方がいっか。

 外の足元灯と玄関ホールだけつけて、わたしも三階に向かった。



「おー、おかえり」
 お、お兄ちゃんが……わたしが呼びにいく前に部屋に来てる……! 明日は雪が降ってもおかしくない……!


「ただいま。もう練習終わり?」
「ああ。宗介がちょうど弾き終わったころに呼びに来てくれたからな」
 秦くん……! ありがとう!

 お兄ちゃんと秦くんはもうすっかり仲よくなった。初対面が一昨日だなんて信じられないくらい。


 秦くんは誰に対しても礼儀正しいから、色んな人に信頼されてる。

 誇りに思うと同時に、わたしももっと頑張らねばと……。学校一のモテモテ女子にはなれなくても、そこそこ頼りになる人くらいにはなりたい。



「なに突っ立ってんだよ。ほら、ここ座れ」
 ローテーブルに屋台ご飯を広げながら、座布団をぽんぽんと指す。

 わたしの席は、お兄ちゃんと秦くんの間。

 しかも、窓の外が一番よく見える特等席だった。


「うん、ありがとう」

 三人そろったらお兄ちゃんが遠隔で部屋の電気を消して、小さな灯りだけを残す。花火は暗い方が見やすいからね。

 食べながら雑談しようって流れになって、お兄ちゃんは残念そうに外を見る。


「ほんとはあっちのベランダから見せたかったんだけどなぁ……」
「今の時期暑いからね……」

「ベランダって、目の前のあれですか? どう見てもベランダって広さじゃない気が……」
「そ。俺の部屋からも行けるし、ガラス張りの部屋みたいになってるからあそこでバーベキューとかもできるんだよな。今の時期はクーラーないから全然使わないけど」

 クーラーもグリーンカーテンもないガラス張りの部屋でバーベキューは、なにかの罰ゲームかと思うほど暑かった……。


「そ、そんなに……」
「あそこが活躍すんのは大体十一月から春先にかけてだな。その時期に泊まりに来ればいい。星がきれいに見えるし、バーベキューも楽しめる」
 天体観測にバーベキュー……今から楽しみ!


「ま、また泊まりに来てもいいんですか……!」

「父さんの部屋は基本空いてるからな。使ってもらわないと傷むしホコリ溜まるから。それに、空のこと大事にしてくれるなら俺は応援するから」

「お兄ちゃん……」
「牧野先輩……」

 お兄ちゃんは、昔から変わらずずっと優しいままだ。
 そういえば、一番最初にわたしと秦くんの関係に気づいて応援してくれたのも、お兄ちゃんだったな。



「二人の結婚式で弾けるようにパイプオルガン必死で練習してっし」

「「……!」」


 けっこん……!

 わたしと秦くんは同時に真っ赤になった。自分がどれだけ赤いかわからないけど、秦くんは暗い部屋でもわかるくらい。


 むしろ、暖色系の灯りで余計に顔の色が強調されて、更に熱くなってしまった。体調悪いときでもここまで熱くなることないんじゃないかってくらい。



「ふはっ、二人そろうと面白くなるな」
「もうっ! からかわないでよ!」

 け、けけ、結婚とか! たしかにずっと一緒にいたいけど、まだ付き合いはじめてから三ヶ月も経ってないんだから!



「けっこん……」

 秦くんもリピートしないで……!
 顔が……! 爆発する……!

 お兄ちゃんは花火が始まるまでお腹を抱えて笑っていた。

 もう……お兄ちゃんに恋人ができたらわたしも絶対からかってやるんだから……! 家族にからかわれる恥ずかしさを知りなさい……!