壊れたブリキ人形みたいにギギギ……と首を声のした方向に向ける。
「な、永塚さん……」
そこにいたのは浴衣姿の永塚さんだった。
年上っぽい男の人と二人でいる。
ちょっとだけ印象が変わったような。かわいらしいのは変わらないんだけど、大人っぽさも加わってる感じ……?
「まさかあんたも来てたなんて。ビックリよ」
「な、なんの用ですか?」
お守りのことがあるので巾着袋をぎゅっとにぎりしめて警戒すると、それに気付いた秦くんがそっと上から手をにぎってくれた。
大丈夫。今は一人じゃない。
永塚さんをまっすぐ見つめ返すと、そばにいた男の人が永塚さんの肩を抱いた。
「こら芽依。キバむいたらダメでしょ?」
「う……。…………わね」
「え?」
「わ、悪かったわね! お金出させたのも、お守り壊したのも!」
え……。え!? 永塚さんが謝った!?
「あんた今失礼なこと考えてるでしょ」
バレてる!
「目が覚めたのよ。秦くんにこっぴどくフラれて、退学になって、友達からもほとんど縁切りされて」
「こっぴどく」
「そうよ! メイがダメ元で告白したのをバッサリ切り捨てたのよ! いや、しでかしたこと考えたら当然だけど、最後はメイの敗因はメイがメイとして産まれたことだとかわけわかんないこと言うし!」
ああ……。
秦くんがわたしに興味持ってくれたのって、万年筆ハンカチで拾ったのと、名前が亡くなったお母さんと一緒だったからって言ってたもんね。
そしたらわたしの勝因はお母さんがいろんな選択肢の中から空って名前を選んでくれたことになる……のかな。
「ま、でも秦くんより大人っぽくて、メイの性格も知ってる人手に入れたからいいけど」
ということは、この人は永塚さんの彼氏さんなのかな?
「あ、ごめん。自己紹介がまだだったね。僕は世良香月。芽依とは三歳差の幼馴染で、今は恋人だよ」
「メイが弱ってるときに落としにきて彼氏名乗るとか恥ずかしくないのかしら?」
「芽依は満更でもなさそうじゃない。恋愛における幼馴染ポジにも報われる日が来たっていいでしょ?」
わたしが聞いたら落ち込んでしまいそうな永塚さんからのトゲを華麗にかわした上で口説く世良さん。強い……。
「メイ……早まったかしら……」
が、がんばって……。
「じゃ、メイ謝ったから。…………あと、今日の格好は、まあまあ、そこそこいいんじゃないの? 牧野空」
「……!」
はじめて、名前で呼ばれた……!
しかも、自分よりおしゃれでかわいい子に褒めてもらえた……!
「ありがとうございます……!」
「ふ、ふん! 行くわよ、香月」
「はいはい、僕のお姫様」
永塚さんと世良さんは嵐のように去っていった。
色々あったから永塚さんと友達になることはできないけど、考えられる中で一番いいお別れの仕方だったと思う。
「ありがとう、秦くん。おかげでちゃんと話せたよ」
「俺は手をにぎっただけ。空が頑張ったからだよ」
その、手をにぎっただけ、がわたしにどれだけ勇気をくれるか知らないのかな。
無視して去ることだってできたし、秦くんが口をはさむことだってできた。
だけど手をにぎって、わたしに全てを任せてくれた。わたしを信じてくれた。
人間関係で何度も失敗しているわたしを。
それがどれだけ心強かったか。
「好きな人が自分を信じてくれるって思えるから、わたしは変われるんだよ」
今回ばかりは伝えないわけにはいかない。このままわたし一人の頑張りにしてしまったらこの先も秦くんの中で、わたしの占める秦くんの影響力は小さいままだ。
「……! す、好き、すきな人……俺の、俺のこと……」
「秦くんがいるからわたしは勇気を出せる。変わりたいって思える。秦くんがいないわたしなんて、きっと今も地味子のままだよ」
今日だっていつも通り、スタンドライトをつけただけの机で一心不乱に絵を描いて、薄暗い部屋の中一人花火を見るだけだったかもしれない。
「は、秦くんはもう少しわたしに好かれてるじ、自覚を持った方がいいと思う……」
「……! 火力高すぎな……」
火力?
つぶやかれた謎のワードに周りに目を向けるけど、フランベしてる屋台はどこにもない。
そもそも人が真剣に話してる中で周りの屋台に目を向けるような人じゃないから……ますます意味がわからなくなっちゃった。
「空に好きでいてもらえてる自覚、か……。じゃあ俺は、これからも空の一番になれるように努力しないとね」
「わたしも、秦くんのとなりに堂々と立てる女の子になるから」
「初心者同士、一緒に頑張ろう」
スマートでカッコいい秦くんも、わたしが知らないところできっとたくさん努力してくれているのだろう。
そこから更に努力してカッコよくなる秦くんのとなりに堂々と立てる日は一体何十年後になるかな……。
火力については、とりあえず聞き流すことにした。多分知っても知らなくてもそんなに変わらないことだから。

