お母さんからためになるアドバイスをもらって、お祭りのあとに提案してみようと決めた。
お祭りは全力で楽しむ!
お昼は軽めにして、少し早いけど準備。
月乃さんから教えてもらったお団子アレンジに挑戦してみたいからね。
海外で生まれて最近日本でも話題になってる……なんだっけ。
カササギヘア? 違う。カマキリ……でもない。カチモリヘア?
お団子なんだけど、毛先を外に出す感じで結ぶから普通にまとめるよりも軽やかで華のある印象になるんだとか。
洗面所で鏡に向かって髪と戦うこと一時間ちょい。
体感では三時間くらいやってた気がするけど、意外と早く完成した。
不慣れ感はあるけど、初心者ならこれくらいでも十分だよね。
髪を整えたら次は着替え。
着物用の透けないインナーに変えてから、秦くんからプレゼントしてもらった浴衣を動画を見ながらまずは一人で着付けてみる。
でも、自分一人だと帯がゆるくなっちゃったり胸元がはだけちゃったりするから最後はお母さんに手伝ってもらった。
最後にドライフラワーを髪に飾ったら、初めての浴衣姿完成!
「すっごく似合ってるわよ! さすがお母さんの娘ね!」
いつになくお母さんのテンションが高い。
わたしは鏡に映る自分の姿が自分じゃないみたいでちょっとソワソワする。
地味でどこかオドオドしがちな女の子はどこにもいなくて、目の前にいるのは大好きな人と回るお祭りに胸をときめかせた普通の女の子。
やぼったく見える丸メガネはそのままなのに、髪型と服を変えるだけでこんなにかわいくなれるんだ……!
ありがとう月乃さん、阿部さん!
二人がいなかったらどうなってたことか……!
おしゃれの先生二人にはたくさん感謝を伝えよう。
お母さんにもお礼を言って玄関に降りたところでタイミングよくチャイムが鳴った。
下駄をしっかりはいて扉を開けると、いつもと全然印象の違う秦くんが。
わ、和装も似合う……!
「こんにちは、空。浴衣似合うね」
「は、秦くんこそ……。す、すごくカッコいいよ」
「よかった。俺に似合うの選んでくれてありがとう」
サラッとこういうこと言えるの素敵だな……。
わたしもがんばらなきゃ。
「さ、行こ」
「うん。行ってきます!」
「楽しんでらっしゃーい」
二階のお母さんに声をかけ、貴重品を入れた巾着袋を持って外に出た。
受験期間中は七時半からの花火を部屋の窓から見るだけだったから、夏祭りに行くのは久しぶり。
久しぶりの夏祭りが好きな人と一緒だなんて。
冷静にならないと鼻歌まじりにスキップしちゃいそう。
二人とも下駄をはいているから歩くスピードはいつもより遅め。
ゆっくりしゃべりながら歩いていると、車道を歩く浴衣姿の女の子グループやカップル、子供連れの夫婦が目立つようになってきた。
そういえば、お祭りのときって歩行者天国になるんだっけ。
シンボルロードと呼ばれている大通りに出ると、屋台がところせましと並んでいる。
チョコバナナやフルーツ飴みたいなわたしでも知ってる定番のものから、タピオカドリンクみたいな昔はなかった屋台も並んでる。
「空、花火はどこで見たい?」
「花火? わたしの部屋からだと障害物がなくて見やすいからどうかな」
「穴場なんだ」
「うん。毎年そこから見てたんだ」
「じゃあ食べ歩きに向かないものも買えるね。袋持ってきたからたくさん買って帰ろう」
そんなことまで考えてくれるんだ……!
たしかに焼きそばとかたこ焼きとか、美味しそうだけどゆっくり座れないとしんどいよね。
お祭りに行かないお兄ちゃんのためにお土産買って帰るつもりだったけど、三人ならにぎやかに食べられるね。
「なにか食べたいものあったら言って。俺は結構夏祭り行ってたし、今回は空に合わせたいんだ」
「いいの?」
「うん。来年からは二人で決めよう」
サラッと来年も一緒に行こうって言ってくれるの……好き……!
合わせるよじゃなくて合わせたい。来年からは二人で決める。
そう言って気を使わないようにしてくれるし、秦くんのこういう言葉選び、わたしも見習いたい。
それじゃあお言葉に甘えて。どこから行こうかな。
最初はなるべく並ぶ時間が少ない方がいいよね。
「あ、あそこは?」
「ベビーカステラだね。いいよ、行こう」
はぐれないように、とつながれた手をにぎり返すと秦くんの耳が少しだけ赤くなった気がした。
「ふふっ」
「なに?」
「ううん、なんでもない」
楽しい。
秦くんに選んでもらった浴衣で歩くのも、長蛇の列に並ぶのも、なぜか二割増しくらいにおいしく感じる屋台のご飯を食べるのも。
全部楽しい。
お兄ちゃんが夏祭りに行かないのは暑くて人酔いしそうになって、人が集まるからトラブルも増える上に交通機関もアテにならなくなるから。
だけど、そういったマイナスな気持ちが、初めての恋に溺れている真っ最中のわたしに湧くわけがない。
「あら、地味子じゃない」
だけど、わたしのうわついた気持ちを一気に現実に引き戻す声が聞こえてきた。

