「ちょっと落ち着いた?」
「うん……あ、ありがとう」
泣き止んで冷静になったら、だんだん恥ずかしくなってきた。
言葉にすることの大切さは知っているけれど、こんなストレートに「好き」って伝えるのはやっぱりまだ恥ずかしいな。
「あ、そうだ。もう一つ話があって」
少し赤くなった顔をあおぎながら、秦くんが話題を変えた。秦くんも自分と同じでこういうのに不慣れだって思うと、なんだろう……嬉しい。
「次はレジンに挑戦してみない? 割れることはあっても破れることはまずないし、濡れても汚れても掃除しやすいし」
「レジン? 動画とかは見たりするけど、できるかなあ……」
「俺も初心者だから一緒に試行錯誤していけばいいんだよ。いつか空に大きなレジンアート作ってもらいたい」
お守りを壊されちゃったわたしに気をつかってくれてるんだろうけど、わたしの作ったものが欲しいって言ってくれるのは幸せなこと。
「わかった! 秦くんがビックリするくらい大きいの作れるようにがんばるね!」
お絵描きチャンネルで見た、レジン一層を一レイヤーとして作る立体的なイラストとかも、プレゼントしたら喜んでくれるかな。
二月の誕生日までまだ時間あるし、練習してみよう。
「俺も、空に似合うものたくさん作りたい」
今日のお昼くらいまでは気分がずーんと落ち込んでて、自分を心配してくれるメッセージにスタンプすら返せないくらいだった。
でも、秦くんと話して、もう二度と手元に帰ってこないと思っていたお守りが、他でもない秦くんの手で形を変えて戻ってきた。
心配させてしまったみんなにはお礼を伝えなきゃ。
「あとさ」
「うん?」
「明後日の夏祭り、予定なければ一緒に行かない? 青葉市でやるやつ」
ぱちぱちと目をまたたく。
夏祭り。
あ! 駅にそんなようなポスターが貼ってあったような気がする! 強化合宿のことでいっぱいいっぱいで、全然見てなかったけど……明後日だったんだ……!
「い、行きたい……!」
できれば、二人で!
「よかった……。断られたらどうしよって思ってたからさ」
「断るわけないよ!」
秦くんからのお誘いなんだから。嬉しいに決まってる。
「じゃあ、もう一個だけワガママ言ってもいい?」
「うん、なんでも言って」
「空の浴衣、見たい」
浴衣……。
持ってない……!
「あ、わたし、浴衣持ってなくて……」
「ああ……」
「だ、だから! 明日、一緒にい、行きませんか……? 秦くんの浴衣、わたしも見たいし……」
ひゃー! 顔から火が出ちゃいそう……!
「俺の浴衣、見たいって思ってくれるの?」
「う、うん……!」
「じゃあ、空が選んで。空のは俺が選ぶから」
拝啓、いつも見守ってくれてるご先祖さま。デートのお誘いができました。
夜も遅くなってたから、秦くんはうちに泊まることになった。
もともと斎藤くんの家に泊まるつもりだっなみたいだけど日本に一時帰国してる間はお父さんがお母さんの部屋で寝るから、秦くんはお父さんの部屋を使えることになって。
ご飯とお風呂を終わらせたらイラストを一枚描くのが日課なんだけど、手元のタブレットをのぞき込む秦くんからわたしと同じ香りがしてドキドキが止まらなかった。
お兄ちゃんの服借りてるしジャンプーも同じだから香りが同じなのは当たり前なのに、こんなに心臓がうるさくなるのは秦くんだからだろうな……。
今描いてるのは一緒に作るレジンストラップの案。
最初だし日常使いできるものがいいよねって話し合った結果、アンブレラマーカーを作ることにした。
形はお互いの星座モチーフにしてみようってところまでいったから今は色とか装飾の案を出してるとこ。
星座はわたしが牡牛座で秦くんが魚座。
初心者だから星座シールとかで少しでも工程を楽にしたいなって思って、近くにある百均の在庫情報を確認しながら描いてる。
自分の作ったら家族とか友達にもプレゼントしたいな。
阿部さんたちに返信したらすぐ既読になって、メッセージが送られてきた。秦くんと話せたことも、お守りが帰ってきたことも自分のことみたいに喜んでくれたからお礼とおわびで。
でも、「ごめんなさい」って言うよりも「ありがとう」って伝えた方がいいと思うから、心の中で大反省して、たくさん感謝しよう。
その日は十時過ぎくらいに解散。
翌朝は朝ごはんを食べ終わった秦くんを歩いて駅まで送り、前回出かけたときに着なかったピンクのオフショルブラウスにデニムのショートパンツ を引っ張り出した。
わたしにはちょっと甘すぎるかなって思ったけどかわいくてつい買っちゃったんだよね……。
いつもは結っている髪を下ろしてハーフアップにしてみた。
これだけで地味感が大分やわらぐ。
それに月乃さんから教わったアレンジを加えて引き出してみたりねじってみたり。
動画を見ながら見よう見まねだけど、ヘアアレンジの基礎として練習してたから、かわいくできた。
日焼け止めを塗って、色つきのリップを薄くのせたらまるで別人。
自分一人でも教えてもらった通りに練習さえすれば、かわいくなれるんだって思えた。
お昼過ぎ、上り電車で何駅か行ったところに浴衣を買いに行った。
今日の秦くんは白と青のボーダーシャツに紺色のカーゴパンツ、明るい茶色のショルダーバッグにスカーフという、マリンコーデ。
シャツをゆるめにインしてるから、チラ見えする大きめのベルトもすごくカッコいい。
あまりのカッコよさに、カッコいいしか感想が浮かんでこない。
上手くできたとは思うけど、わたし大丈夫かな。ヘンじゃないかな。
「今日の空、いつも以上にかわいいね」
よかったぁ……。
「秦くんも、すごくカッコいいよ。似合ってる」
「ありがと。さ、行こっか」
秦くんが選んでくれたのは、ひまわりモチーフの白と黄色の浴衣。着付けやすいように、帯は作り帯。これなら浴衣初心者のわたしでもできそう!
わたしはブラウンベースで、ところどころ赤や白の差し色が入っている浴衣を選んだ。
秦くんがわたしの好きな色を考えて選んでくれたからね。
お互いにプレゼントしあってその日は終わり。
明日は四時くらいにわたしの家まで来てくれるらしい。
明日に備えて浴衣に合いそうなヘアアレンジを復習して眠りについた。

