「……ん…………」
なんだろう……温かくて、柔らかい……。
わたし、お守りを探そうとして、雨の中外に……。
お、お守り!
「わぁ! び、ビックリした……」
「いっ……たぁ……」
まだはっきりしない意識の中で飛び起きたから、わたしの顔を覗き込んでいた子に頭突きしてしまった。
ジンジンと痛む頭を押さえ、いつもと感覚が違うことに気づいた。
「ほ、包帯……?」
そう、私は指先から両手首までを包帯でぐるぐる巻きにされていた。
「手が血だらけだったんだよ……! 絆創膏いっぱい貼ったから、はがれないように包帯巻いたの。熱もすっごい高かったし、ほんとに、ほんとに心配したんだからぁぁぁ……!」
可愛い顔をくしゃくしゃにしてわたしを抱きしめたのは阿部さん。
確かに、言われてみたら指先がヒリヒリするような気がする。夢中だったから、草で切っちゃったところ以外は気づかなかったのかな。
「先生から倒れたって聞いたとき、すっごい怖かったんだから!」
わたし、倒れたの!?
なんとなく覚えてないところが多いと思ったら、倒れてたなんて……。
「し、心配かけて、ごめんなさい……」
謝ると、更に力を込められた。
し、しまる……。
「阿部、牧野は普通の女の子なんだからそんな風につぶそうとするんじゃない」
心配をかけてしまったのだから、骨の一本や二本折れても仕方ないと覚悟を決めたとき、羽場先生が入ってきた。
「目を覚ましたようでなによりだ。親御さんが迎えに来てくれたから今回は帰宅しなさい。もちろん風景画の成績はちゃんとつけるし、確認テストも別日に受けられるように調整をするから」
お守り……お守り……。
ここまでしても、手が血だらけになるくらい探しても、見つからなかったんだ……。
「……はい……」
永塚さんたちはもう帰ったみたいで、元の部屋にはわたしの荷物以外なにもなかった。
手伝うと言ってくれた阿部さんと月乃さんの厚意は断って、少し重たい体を無理やり動かして荷物をまとめた。
「大変だったな、空」
羽場先生に案内された駐車場には、お父さんが来ていた。
「ううん……」
お父さん、お母さんと過ごせる貴重な休みだったのに。
「帰ろ」
「うん……」
羽場先生にお辞儀をして、車に乗り込む。
秦くん……一回もすれ違わなかったな……。
なによりも大切にしたかったお守りをなくしたんだ。失望されてもおかしくない。
帰りの車で、お父さんはなにも聞いてこなかった。永塚さんのお母さんから受け取ったお金を返された以外はなにも話してない。
聞かれても、今のわたしじゃ答えられない。
阿部さんたちからもらった心配のメッセージにもまだ返信できてない。
「空、着いたぞ」
「……ありがとう」
お兄ちゃん、心配するだろうな……。
お母さんも悲しむはず……。
もうずっと車の中にいたい……。
「あ、もしかして歩けない?」
「……歩ける」
「お父さんもお母さんも、陸也だって空のことが心配だ。だけど、無理に話を聞き出すつもりはないから。な?」
正直、怖い。
小学校のからグレードアップした失敗をしてしまったから。
今度こそ、わたしが原因で。
「大丈夫だって。ほら、おいで」
でも、これ以上車のエンジンをつけっぱなしにさせてしまったらお父さんに迷惑がかかる。
うながされるままに車から降りた。
まだお父さんの顔は見られない。
「帰ったよー……って……ずっといたの? 熱中症なっちゃうからリビングいてって言ったのに」
玄関入ってすぐ、お母さんとお兄ちゃんが仁王立ちで待っていた。
玄関にはクーラーがないから、二人とも汗びっしょりだ。脱水症にならないように水分まで用意してる。
「だって、心配だったんだもの。ねぇ? 陸也」
「ああ。全員で迎えに行くのをガマンしたんだからな」
「家族全員で行ったら先生たちにドン引きされちゃうでしょう……」
「とりあえず空、おかえり」
「うん……ただいま」
お兄ちゃんが何年ぶりかに頭をなでてくれた。
「ほら、上がれ。まだ熱あんだろ?」
出る前に測ったときは、七度九分くらい。
「この俺が、リラックスできる曲作ってやったからな。ベッド入って二秒で寝れるぞ」
「ふふっ……」
あ……。今、笑った。
目の前真っ暗で、どうやって取りつくろえばいいかもわからなかったのに。
わたし、色んな人に助けられてばっかだな……。
お守りのことは、次に会ったときちゃんと謝ろう。
たとえ桐谷くんの言う通りにならなくて嫌われちゃったとしても。
だから今は、なにも聞かないでいてくれる両親と、普段はしないような言動をして笑わせてくれたお兄ちゃんに甘えたい。
——と思っていたんだけど。
熱もすっかり下がった八月二日。
夕方六時をまわったころ、秦くんが家を訪ねてきた。
誰にも家教えてないのにって思ったけど、出身小学校と最寄り駅だけは知ってたからって、青葉小の校区にある家の表札をしらみつぶしに探したって。
早朝からずっと。
今日はもう無理かって思ってたときに部活帰りの康太くんに会って、案内してもらったって言ってた。康太くんとは六月にあった試合で会ってたからお互い知ってたみたい。
わたしは思ったよりも早く、秦くんと向き合うことになった。
夏休みの特別授業が始まるのはお盆休み明けの十五日からだからそれまでに心の準備をしておこうって思ってたけど……。
こんなに早くなるなんて聞いてない!
大あわてで自分の部屋に案内して、麦茶を出したわたしは、土下座する勢いで秦くんに頭を下げた。
「お守り、失くしてごめんない……!」
「頭上げて、空。ちゃんとあるから」
でも……。
うん? ある……? あるって? お守りが?
「ほら」
秦くんがわたしの目の前に出したのは、少し泥汚れがついた布が使われた新品のお守り。
「これ……」
「この切れはしだけ、悠人が見つけてくれてたんだ。渡されてすぐに洗ったんだけど、うまく落ちなくて。でも、がんばってぬい合わせたから、また受け取ってくれる?」
「……! い、いいの……?」
「うん。受け取ってほしい」
「ありがとう……! わたし、もうダメかと思って……!」
ボロボロと涙がこぼれて止められない。
秦くんは怒らないって言われたけど、自分が作ったものをバラバラにされて傷つかないはずない。
なにもできなかったわたしに、失望したっておかしくない。
そう思ってた。
だけど。
わざわざ同じ布を使って新しく作り直してくれた。
届けに来てくれた。
「好き、です……」
優しくて、ダメなわたしでも好きでいてくれる秦くんのことが。
「……! ありがと。俺も空のことが大好きだよ」
泣き続けるわたしのそばに、秦くんはずっといてくれた。

