ない……ないないない……。
爪の中に土が入るのも、雨でメガネがびしょびしょになるのも構わず草をかき分ける。
「もし敷地内にあるなら、風向き的にこの辺りが一番怪しいです」って桐谷くんが教えてくれたから血まなこになって探しているのに、十分経った今も切れはし一つ見つからない。
桐谷くんもわたしから少し離れたところを探してくれてるけど、まだ見つかってない。
これ以上伸ばすと先生たちに見つかって、お守りを探すどころじゃない。
早く見つけないといけないのに。
焦れば焦るほど周りが見えなくなって。
体に当たる雨粒がカッパのフード越しにとても大きく聞こえる。
集中力も保てない。
「いっ……」
あ……草で切っちゃった……。
土いっぱいついてるし、雑菌入っちゃうだろうなぁ……。
いや、そんなこと今気にしてるヒマない!
傷口はあとで洗えばいい! お守りは今見つけなかったらどうなるかわからないんだから!
目からの情報は全然役に立たないから、手触りだけでお守りを探す。
「ない……」
もう夏なのに、なんだか寒くなってきたな……。
手がドロドロで、もう触感もアテにならなくなった。
「っ……!」
悔しい。
反抗できなかったのも、捨てられるってわかって掴めなかったのも。
そもそも最初に仲良くなれるかも、なんて思ったのが間違いだったんだ。
最初から嫌われてるってわかってたんだから、その時点で先生に相談すればよかった。
そうすればすれ違いざまに陰口を言われるくらいで済んだかもしれないのに。
悔しいっ……悔しいよ……!
これは全部、人の感情を侮ってたわたしのせい。
たくさん友達ができて、康太くんとも仲直りできて、自分はもう大丈夫なんだって思い込んでた。
そんなこと、あるはずないのに。
わたしは自分で考えて行動できてない。ただ優しい人に助けられてただけ。
なのになんで、過信できたんだろう。
なんで自分で解決しようだなんて思ったんだろう。
「ごめ……なさい……!」
「牧野さん……? 牧野さん、牧野さん!」
「……桐谷、くん……。わたし……」
「言ったでしょう? 自分を卑下したらダメですって。牧野さんが仮にどうしようもないおろか者だったとしても、宗介はそんな牧野さんを好きになったんです。カッコ悪いところもダメなとこも含めて、あなたは宗介の好きな人なんです」
でも……。
「でも、それでもわたしは……自分を許せない……」
わたしがもっとしっかりしてたら、あのお守りはまだこの手の中にあったんだ。
「牧野空」
「……! は、はい!」
決して大きな声じゃないのに、わたしの言葉をさえぎった桐谷くんからは強い圧を感じた。
「なにをうじうじ悩んでいるのですか。お守りを失くしたのは確かに不注意が原因だと思います。ですが、宗介はこう言うでしょう。ならまた一緒に作ろう、と。牧野さんがこうして悩んでいることは、宗介にとってデートに誘う口実にしかならないのですよ」
「で、デートって……」
さすがに“口実だけ”にはならないんじゃ……。
「いいえ、宗介はそういう奴です」
初等部から一緒だった桐谷くんが言うなら……そう、なのかな……。
「お前らー。こんな雷雨の中外に出るなんて、相当肝すわってるんだな」
わたしの背後から差した光とその声で反射的に振り向く。
「は、羽場先生……!?」
「今日じゃなきゃいけない探し物か?」
「はい……」
「僕が裏口から連れ出しました」
え……!? だ、ダメだよ! そんな風に言ったら桐谷くんまで……!
「言ったでしょう? 自己満足だって。それに、ここで牧野さんを売れば一年は口をきいてもらえなくなりそうなので。いや、卒業までシカトされる可能性もあります」
あの秦くんが、無視……? シカト……?
あんま想像できないな……。
「んで、見つかったのか?」
「……見つからないです…………」
無意識のうちにぐっと噛んでいた唇が痛い。
「今の状態で続けても、見つからない。風邪引くから中入るぞ。桐谷もだ」
「「……はい」」
帰りたくない……。
今のわたし、絶対ひどい顔してる……。
ふらつく足で羽場先生に着いていくと、なんだか頭もぐらぐらしてきた。
「……牧野? どうした、牧野? ……!」
ああ……地面がどこかもわからな、く……。

